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第四幕

4-2・私だって

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 形のいい少女の唇が、ゆっくりと開かれていくのを俺は見ていた。

「……あなた、何がしたいんです」

 少女が告げたのはそんな言葉で、俺は微笑んだまま、首を横に振る。
 俺が何をしたいのか。そんなの、わかりきっている。

「此処に何度も立ってますよね。そんなに長い時間じゃないけど、休日になると毎週。近所でも噂になってますよ。不審者が何度も出るって聞いて見に来たら貴方じゃないですか。正直気持ち悪いです」

 少女の言葉は辛辣で、なるほど噂になっていたのかと知る。
 この子から気持ち悪いと言われるのは二度目だ。そうだろうと自分でも思う。
 少女からすると、見ず知らずの成人男性が、数年前に死んだ姉の名前を出し、その上、休日の度に毎週現れる。ちょっとストーカーのようだ。
 だけど俺はそれに縋るしかなかった。
 傘を差しかけてくれている少女を見る。
 影になっていてもはっきりわかる、キレイな顔。何処までも然乎ぜんこさんにしか見えない。なのに違うだなんて。

「俺は……ただ、会いたくて」

 然乎さんにもう一度会いたくて。
 絞り出すように告げた言葉に、少女が唇を噛みしめた。

「そんなの……そんなの、私だって幸凪ゆきなに会いたいっ! でも、もう会えないんです! だって、だって幸凪はもう……」

 もう。
 感情を爆発させたかのような少女の声には、涙の気配が滲んでいた。
 堪らなくなる。
 会いたいのは、この少女も同じなのか。
 当たり前だ。だってこの少女は双子の妹なのだ。
 望んでももう会えなくなった姉に、会いたくないはずがない。
 少女の目尻に光る涙がキレイだった。
 雨が傘を打つ音がする。
 風に葉が揺れている。
 俺はそれ以上何も言えず少女を見ていた。
 しばらくして少女は涙の滲む目尻もそのままに、やはり不機嫌な表情をしたまま顔を上げた。
 俺を見る眼差しはきつく、見るからに不本意そうで。だけど、差し出していた傘を俺の手に強引に押し付けて来たので、俺は思わずそれを受け取ってしまう。
 俺が傘を手にしたのを確かめてから、少女はすっと少しだけ体を離した。
 一度、唇を嚙んでからやはり不本意そうに口を開く。

「着いて来てください。会わせたい人がいます」

 本当は合わせたくないけれど、仕方がないとでも言いたそうだった。
 少女の雰囲気にのまれるように、ぎこちなく頷く俺に、もう一度顔を歪めてから、踵を返した少女が歩き出す。
 俺は少女が差し出してくれた傘を握り締めて、慌てて少女の後を追った。
 振り返らない少女の背は、やはり改めて見てもあの日の然乎さんと同じで。双子の妹だということも含め、俺には何が何だかよくわからない。
 雨はしとしとと降り続けていた。
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