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x-7・無理のある婚約破棄
しおりを挟むそんな学園生活を経ての今日。
ユリィ様の成人を祝うパーティが行われる予定だったのである。
ちなみに学園は少し前に卒業した。
ユリィ様はこと、学業面だけで言えば、私をしのぐほど素晴らしい成績を修められていたとうかがっている。
なお、ユリィ様とあの女は今夜久しぶりに顔を合わせたはずだ。
おそらくは卒業以来初めてであったのではないかとさえ思う。
むしろユリィ様は、あの女が今日の夜会に来ていることさえ把握していたのかすらあやしいのだが、それはともかく。
ユリィ様と私は近々婚姻することが決まっている。
それは数年前から定められていたことで、今日のパーティで、婚姻式の日程を発表する予定となっていた。
私にとっては待ちに待った念願の日だ。
なにせユリィ様はいまだご病気を患ったまま。治療に性行為が必要であることを踏まえ、陛下は私に、
「せめて婚姻式を経た後に」
と制約を課されていた。
多分陛下は陛下で私が、ユリィ様を囲い込んでしまうことを危惧していた部分があるのだろう。
可愛い可愛い溺愛している、お母君によく似た一人息子。
いくら治療の為もあるとは言え、私などに差し出してしまうのは業腹であるに違いない。
誰が息子を甥とは言え他所の男に渡したいと思うものか。
それぐらいには陛下はユリィ様のことを思っておられたし、しかし治療の必要性も理解していて、それが故の出来るだけ早くと急いだ、数ヶ月後の婚姻だった。
別に成人なさったのだし、例えば今夜すぐに、でもきっと構わなかったのだろうけれど、否、ユリィ様のご病気を思えば、一刻も早い治療が必要なのは間違いがないのだけれども、なにぶん私もずっとユリィ様を求め続けてきていて、せめて成人を迎えるまではと必死に自制してきていたに過ぎない。
陛下が危惧するように、ユリィ様を閉じ込めてしまうような気しかせず、そういった諸々を踏まえて決められた、後たった数ヶ月なのだった。
なのに。
ユリィ様はなぜか、今夜、会場で、パーティの開始を待たず、私に婚約破棄などと言うことを言い放たれていた。
わけがわからなかった。
これまでそのような傾向など全くなかったのだから余計にだ。
なにせユリィ様はあの発言に至るまで、全く持っていつも通りだったのだ。
ユリィ様の服は、いつも基本的に私が用意している。
むしろ私が用意した以外の服を、ユリィ様には身に着けて頂きたくないとまで私は思っていた。
それは幼い頃からのことで、私の執着と独占欲は、王配になるからという理由のみで許されてきたと言っていい。
多分陛下や両親は呆れていたと思うのだが、それでも彼らは私の執着を咎めたてたりしなかった。
ユリィ様はそう言ったことに全く頓着なさらない。多分、興味もない。
今わかったことだがそれは、ご自身の容姿に価値を置いておられなかったからというのもあるのだろう、ユリィ様はこれまでも差し出された衣服を何の疑問も抱かずに身に着け続けて来られた。
私が用意した衣服を、だ。
ユリィ様は全くそう言ったことに興味をお示しにはなられなかったけれど、ユリィ様の服を私がいつも用意していることを知っていた。
特に隠すようなことでもなかったので、何かの折に誰かがお伝えしたのだと思う。
それは今日、パーティで身に着けておられた服も同じ。
色は私の髪色に合わせた水色だし、縫い付けた宝石などは、私の目の色と同じ青。
言うならば全身、私の色を纏っておられるようなもので、そんな服を身に纏って、私との婚約を破棄するなどと言い放ったのである。
わけがわからないに決まっていた。
その上、なんだかいろいろと頑張って話していたようだが、必死によくない態度を取ろうと無理をしておられるのが明らかで、周囲者も皆がハラハラして見守っていたことを、きっと無理をなさっておられたユリィ様はお気づきになられていなかったのではないかと思う。
そんな状態で今夜、ユリィ様が私に向かって告げられた言葉を、そのまま受け止めた者などいなかった。
いったいユリィ様は何がしたいのか、無理はしない方がいいと、心配していた者は多いだろうけれど。
それこそ、我が物顔でユリィ様にしがみつき、ふらつくユリィ様に負担をかけていたミュリニエだとかいうあの女以外には。
遅れて駆け付けられた陛下も、驚いて唖然としておられたものである。
きっと陛下は、ユリィ様が何を思っていらっしゃるかはともかく、素早く限界を見極められたことだろう。
誰の、何をかというと、つまりは私の。
この私がユリィ様に、たとえ本気でなかったとしても婚約破棄だなどと言われて、平気であれるはずがない。
陛下はそれがわかっていらした。
だから私に許されたのだ。否、ユリィ様を託された。
もうよいと。
もうすぐにユリィ様の治療に移ってしまっても構わないのだと。
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