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12・更に更に前の話の続きの続き、足枷。
しおりを挟むラシェは毎日大変に忙しそうだった。これでもかと施される王配教育とやらに全力で邁進していた。
辛いこともあったと思う。
他にやりたいことだってきっとあった。
だけどラシェは、僕の前では弱音一つ吐き出したりなどしなかった。
ラシェに依存するばかりの僕に、いつだって優しくて、その上、何故そんなに頑張れるのだと訊ねると、いつか、将来僕を支えられるよう、僕に相応しくあるようにと誇らしげに笑って。
僕は居た堪れなかった。
僕が、平民よりもよろしくないぐらい魔力が少ないから、ラシェが要らぬ苦労を背負い込んでいると思えてならず、なのにラシェは将来までも、僕に縛られ続けるのだ。
それはなんて罪深いことなのだろうか。
こんな、髪も目も濃い色の魔力の少ない僕なんかに。
僕は王子だ。
国王である父の唯一の息子。
将来、この国の王となることが定められている。
王どころか、生きることさえままならないこの僕が。
僕は母にとても似ていると父が褒めそやした。
だが、僕は自分がとても平凡であることを知っている。
なにせ髪も目も物凄く色が濃くて、どこもかしこもが美しくないのだ。
幼少期から虚弱だったゆえか、身長は辛うじて女性と同じか、それより劣るぐらいにしか伸びず、体なんてどこもかしこも、厚みなどまるでなく薄いばかり。
男なのに、女性よりも細かった。
その癖、女性のような柔らかさなど当然持たず、勉強もろくに出来なければ頭も別に全くよくない。
魔法魔術など使えるはずがなく、体力がないから剣術やら体術など以ての外。
常に体には不調を抱え、少し長くラシェと離れるだけで、すぐに寝込んでしまったりもする。
父や侍女、女官などからは可愛い可愛いなんて愛でられたが、そんなもの、生れた時から見ている欲目か何かに違いない。
愛着のようなものなのだろう。
実際に僕のお友達たちからそのようなことなど一切言われたことがない。
いつも、
「お気の毒に」
などと言われるばかりだった。
ラシェは僕をとても大切にしてくれるけれど、真面目なラシェのこと、それらはきっと義務感からに違いなく、その証拠に僕と一緒にいない時のラシェは、とても自然で、生き生きとしているようにさえ見えることがあった。
笑顔だって全然違う。
常に僕を気遣うように、時折影を落としたような、あるいは何かに堪えるような雰囲気などまるでなく、他の誰の前であっても、ラシェは大変に明るい少年だった。
皆の憧れ、完璧なラシェ。
それに比べ平凡な、否、平凡などよりもっと更に劣る僕。
皆に気遣わせるだけのいっそ邪魔な存在。
もし、僕がいなければ、きっとラシェか、そうでなくともラシェの兄弟の誰かが王になる。
僕がそんなことに気付いたのも、やはり学友たちの内の誰かの言葉からで、それは確か、
「ヴァラシエタ様は殿下をお支えする為に、王に相応しくあろうとなさっていらっしゃって。本当に頭が下がる思いがします」
「本来なら王がすべきことを、きっとヴァラシエタ様なら熟して下さいますね!」
「殿下は安心して、ヴァラシエタ様にお任せになられると良いですよ」
だとかそのようなもので、これもやはり、虚弱な僕を心配して、安心させる為の物だったのだろう。 でも、それはつまり、僕よりよほどラシェの方が王に相応しいということでしかなく、少なくとも僕にはそうとしか思えず。僕なんていない方がいいのだろうということだけを理解した。
僕はただの完璧なラシェの足枷なのだ。
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