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11・更に更に前の話の続き、言葉。

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 そうして将来の僕の伴侶にと、選ばれたのが僕より半年だけ先に生まれた、同じ年のラシェ。
 ラシェの母は僕の父の兄。
 ラシェの父はミサフィレ公爵家の者で、レナディヤ公爵家の出である僕の母とは従兄弟同士だった。
 つまり非常に血も魔力も近しい存在だったのである。
 それはきっと僕よりも王に相応しいのではないかと思うぐらいに。
 何よりもラシェは、国の中では一番ではないかと思えるほど物凄く魔力が多かった。
 きっとラシェのご両親が、特別に愛し合われた結果だったのだろう、お二人よりも魔力量多く生まれ付いたラシェは、持っている魔力に相応しく、魔力操作は勿論のこと、魔法や魔術に大変物凄く長けていた。
 元々見目の良い両親のもとに生まれている。顔の造作などが素晴らしく良いのは前提として、魔力量が多い分だけ余計に魅力的に人の目に移って、それは僕にとっても同じだ。
 また、将来伴侶になるというのもあったのだろう、他の者よりも多くの魔力を、僕へと注ぐことが許されていた。
 幼い頃の僕はラシェに手を繋がれたり、頭を撫でたり、抱きしめられたりしていると、止まない頭痛や吐き気、倦怠感や眩暈などが、びっくりするぐらい感じなくなるので、それだけを単純に喜んでいた。
 なにせ碌に起き上がれもせず、動けなかったのだ。それがラシェと一緒なら歩き回れたのである。
 父に抱き上げられる以外で、ラシェと共にいる時ほど、ベッドの外に出れたことなど他にない。
 僕はすっかりラシェの魔力に染まっていった。
 そして少しずつ、ラシェがいなくとも立って歩けるぐらいにはなっていった。
 その頃からラシェと共に始められた勉強は当たり前だがラシェに全く追いつけず敵わず。すぐに理解さえ難しくなったのだが、それでも随分と多くの時間を、ラシェと過ごしたのは間違いない。
 ラシェは大変に素晴らしい存在だった。
 まるで僕の理想と憧れを集めたかのよう、大変に優秀で高潔で、何より物凄く真面目で僕をとても大切にしてくれた。
 僕はラシェが大好きだった。
 ラシェ以外要らない、そんな風に思うぐらいだった。
 年を経るごとにラシェにべったりと依存していく僕に危機感を抱いたのか、それともただ単純に色々と忙しいラシェの時間をそれ以上割かないようにという配慮だったのか、いつしか僕の周りには、ラシェ以外の友人が用意されるようになっていた。
 みな特に治癒魔術などが得意で、また魔力操作が大変に上手い、僕と年の近い者達ばかりだ。
 僕に大衆小説についての話を面白おかしく聞かせてくれたご令嬢もその一人。
 彼ら彼女らは皆、僕の状態を知っているので、辛い体の不調に常に悩まされている僕の気持ちを、少しでも紛らわせられるようにと、とても沢山のことを話してくれた。
 勿論、僕に施せる可能な限りの治癒魔術を施してくれながら。
 それらはラシェが側にいる時ほど、僕を楽にはしてくれなかったけれど、僕は彼ら彼女らのこともすぐに大好きになっていった。
 彼ら彼女らがたくさん話してくれたことの一つが、あの大衆小説についての話だ。
 あれはあのご令嬢が面白いと思ったことを、僕に教えてくれたに過ぎない。
 あまり満足に動き回れず、非常に世界が狭い僕を案じてくれてもいたのだろう。
 まさか彼女だって、僕があの後、あんな行動を取るようになるとは思ってもみなかったはず。
 ちなみにミュリニエ嬢は当たり前だが彼ら彼女らとは全く違い、あの学園に入ってから初めて会った者の内の一人だった。
 そんな風に、僕の周りには大きくなるにつれて人が増えていったのだけれど、僕が僕という存在に疑問を持つようになっていったのにも、彼ら彼女らの影響がある。
 いくら治癒魔術や魔力操作に長けている高位貴族の者が選ばれているとは言っても、彼ら彼女らもまた、僕と同じ子供だった。
 自分の発言が、誰にどのように影響するのか、少しばかり考えが足りない部分があるのも仕方のないことだったのだろう。
 多分彼らからすると全く悪気のない、さりげない言葉だったのだとは思う。

「それにしても、殿下は大変に恵まれていますね。そのように平民のよう、生きるのが難しいぐらいに魔力が少ないというのに、陛下の唯一のお子様だからこのように僕達の助けが得られ、大きくなったらあの、ヴァラシエタ様を伴侶に迎えられるのですから」

 彼らの中の一人が、そんなことを言って僕を羨んだ。
 多分きっと、それを言った者も、ラシェに憧れていたのだろう。
 だから僕のことが羨ましかった。
 その言葉をきっかけに、幾人かが口々に僕を羨ましいと言った。
 平民のように魔力が少ないのに、恵まれていてよかったね、と。
 ラシェと親しいなんて凄いことだと。
 誰も何も悪気なんてない。
 その言葉が、誰にどんな風に受け止められるかなんて、まるで理解していなかった。
 だって、ただ、いいですね、と誰の目にも明らかな事実を口にしただけだ。
 僕は彼らの言葉に、本当にその通りだと笑って頷いて、その時は特に何かを思ったなどと言うようなことはなかったと思う。
 ただそのうちに漠然と理解していくようになっただけ。
 ああ、そうか、僕は王族だというのに、平民よりも魔力の少ない、よろしくない存在なのか、と。
 それがそのうちに、完璧なラシェに相応しくないのではないか、そんな風に思うよう変わっていくことにそれほど時間はかからなかった。
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