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10・更に更に前の話、僕。

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 理解できないというのなら、更にもっともっとさかのぼってみたいと思う。
 そもそもの全ての始まりは、僕が王家に生まれ付いたことだと僕は思っている。
 僕はここエラルフィアラ王国、国王の唯一の子供であり王太子だ。
 この国に今、王子は僕しかいなかった。
 兄弟はいない。
 何故なら国内の由緒正しいレナディヤ公爵家から王家へと嫁いだ、もちろん王妃であった僕の母が、僕を産んでほどなくして亡くなってしまったからだった。
 父は母を大変に愛していて、代わりなどいないと母の死後も他の伴侶を娶ることなく今に至っている。
 とにかく、そんな風に僕には母がおらず、父は母の忘れ形見とも言える僕を大変に慈しんで育ててくれた。幸いにしてというべきか、僕はどうやら顔の造作などについては母にそっくりであるらしく、父の僕への態度は溺愛というに相応しいもので、僕は父からの愛情を疑ったことなどない。
 だが同時に、それこそが悲劇だったのではないかとも思っていた。
 いったい父と母に何があったのか。
 僕は王族であり、父も母も王族、もしくは高位貴族であるにもかかわらず、どうしてか・・・・・生まれつき、ないに乏しいほど魔力が少なかった。
 魔力量が多ければ多いほど、髪色や目の色が白に近くなるというのに、僕の髪色は一目で魔力をほとんど持っていないことがわかる位に、黒に近い色をしていた。
 勿論、真っ黒などではなく、一応、黒に近いほど濃い紫色なのだけれど、魔力が少ないことは見間違えようがない。
 かろうじて目ははっきりと青に見える程度には黒ではない色をしているので、目だけを見るとそうでもないように思えるかもしれないが、それだって色味としては、とても深い色で。
 正直に言うと、このような目や髪の色、魔力量では平民並みか、もしかしたら平民より少ないかもしれないというような有り様だった。
 魔力というものは基本的に、王族や貴族などの方が多く持っているものなのである。
 当然、魔法や魔術など使えるわけがなく、生きていくので精いっぱい、魔力操作自体は下手ではないと言われたが、それがなんだというのだろう。
 操作する為の魔力自体がないのだから、何も出来はしないのだ。
 そもそも魔力がなければ生きることそのものが難しいというぐらいには、魔力が大変に重要視されるこの世界で、僕はどれだけよろしくない存在だったことだろう。
 それはどれほど父が僕を愛してくれていても、どれだけ周囲が僕を大切にしてくれても変わらない。
 それもあってなのか、僕はおそらくは生まれた時から、慢性的な頭痛に悩まされてきた。
 加えて常に倦怠感と眩暈、吐き気が付きまとう。
 魔力が少ないが故の症状なのだと聞いていた。
 とんだ王子もいたものだ。
 王子としての責務や執務どころか、生きることさえままならない。
 僕ははっきり虚弱な子供だった。
 いつも苦しくて起き上がることさえ難しくて。
 大抵が熱やら頭痛やらに魘されるばかりの僕に、それでも忙しいはずの父は可能な限り僕に寄り添おうとしてくれていたし、僕の周りには、そんな僕の症状を少しでも緩和できるようにと治癒魔術などが得意な者ばかりが集められていた。
 僕の不調は魔力が少なすぎるが故のもの。
 だから、魔力を注がれさえすれば少しは症状を抑えることが出来て。
 だけど、治癒魔術や、肌同士の触れ合いによって他者に流せる魔力など、そもそもそれほど多くなどない。
 どれだけ回りが僕に魔力を分け与えようとしてくれたとしても、それは僕の不調を、全く失くしてしまうことなど出来ない程度の物でしかなかった。
 あとは僕自身の生み出せる魔力が少なすぎる僕は、あまりに多くの人からの魔力を注がれてしまうと、存在が揺らぐ可能性もあって、注げる量に限りがあったというのもあるのだろう。
 もっと誰か一人に絞って、注いだ魔力を僕自身と馴染ませていきながら、だとかであればもしかしたら違ったのかもしれないけれど、それは流石に治癒魔術や肌同士の触れ合いからだけでは難しい。
 それこそ、僕の体内に直接・・・・・魔力を注ぐでもなければできないようなことだった。
 例えばくちづけや、それこそ性行為などによって。
 僕は子供だった。
 加えて唯一の王族で、不用意にそのような接触を持たせられるはずもなく、余計に僕に、そんな方法など取れなかったことだろう。
 なんとか死なずに生きながらせることそのものは出来ていたのだからなおさらだ。
 成人を待って、伴侶とした者に任せる。そうして初めて、僕を治すことが出来るだろう。
 それが父が下した判断だった。
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