10 / 24
10・更に更に前の話、僕。
しおりを挟む理解できないというのなら、更にもっともっとさかのぼってみたいと思う。
そもそもの全ての始まりは、僕が王家に生まれ付いたことだと僕は思っている。
僕はここエラルフィアラ王国、国王の唯一の子供であり王太子だ。
この国に今、王子は僕しかいなかった。
兄弟はいない。
何故なら国内の由緒正しいレナディヤ公爵家から王家へと嫁いだ、もちろん王妃であった僕の母が、僕を産んでほどなくして亡くなってしまったからだった。
父は母を大変に愛していて、代わりなどいないと母の死後も他の伴侶を娶ることなく今に至っている。
とにかく、そんな風に僕には母がおらず、父は母の忘れ形見とも言える僕を大変に慈しんで育ててくれた。幸いにしてというべきか、僕はどうやら顔の造作などについては母にそっくりであるらしく、父の僕への態度は溺愛というに相応しいもので、僕は父からの愛情を疑ったことなどない。
だが同時に、それこそが悲劇だったのではないかとも思っていた。
いったい父と母に何があったのか。
僕は王族であり、父も母も王族、もしくは高位貴族であるにもかかわらず、どうしてか生まれつき、ないに乏しいほど魔力が少なかった。
魔力量が多ければ多いほど、髪色や目の色が白に近くなるというのに、僕の髪色は一目で魔力をほとんど持っていないことがわかる位に、黒に近い色をしていた。
勿論、真っ黒などではなく、一応、黒に近いほど濃い紫色なのだけれど、魔力が少ないことは見間違えようがない。
かろうじて目ははっきりと青に見える程度には黒ではない色をしているので、目だけを見るとそうでもないように思えるかもしれないが、それだって色味としては、とても深い色で。
正直に言うと、このような目や髪の色、魔力量では平民並みか、もしかしたら平民より少ないかもしれないというような有り様だった。
魔力というものは基本的に、王族や貴族などの方が多く持っているものなのである。
当然、魔法や魔術など使えるわけがなく、生きていくので精いっぱい、魔力操作自体は下手ではないと言われたが、それがなんだというのだろう。
操作する為の魔力自体がないのだから、何も出来はしないのだ。
そもそも魔力がなければ生きることそのものが難しいというぐらいには、魔力が大変に重要視されるこの世界で、僕はどれだけよろしくない存在だったことだろう。
それはどれほど父が僕を愛してくれていても、どれだけ周囲が僕を大切にしてくれても変わらない。
それもあってなのか、僕はおそらくは生まれた時から、慢性的な頭痛に悩まされてきた。
加えて常に倦怠感と眩暈、吐き気が付きまとう。
魔力が少ないが故の症状なのだと聞いていた。
とんだ王子もいたものだ。
王子としての責務や執務どころか、生きることさえままならない。
僕ははっきり虚弱な子供だった。
いつも苦しくて起き上がることさえ難しくて。
大抵が熱やら頭痛やらに魘されるばかりの僕に、それでも忙しいはずの父は可能な限り僕に寄り添おうとしてくれていたし、僕の周りには、そんな僕の症状を少しでも緩和できるようにと治癒魔術などが得意な者ばかりが集められていた。
僕の不調は魔力が少なすぎるが故のもの。
だから、魔力を注がれさえすれば少しは症状を抑えることが出来て。
だけど、治癒魔術や、肌同士の触れ合いによって他者に流せる魔力など、そもそもそれほど多くなどない。
どれだけ回りが僕に魔力を分け与えようとしてくれたとしても、それは僕の不調を、全く失くしてしまうことなど出来ない程度の物でしかなかった。
あとは僕自身の生み出せる魔力が少なすぎる僕は、あまりに多くの人からの魔力を注がれてしまうと、存在が揺らぐ可能性もあって、注げる量に限りがあったというのもあるのだろう。
もっと誰か一人に絞って、注いだ魔力を僕自身と馴染ませていきながら、だとかであればもしかしたら違ったのかもしれないけれど、それは流石に治癒魔術や肌同士の触れ合いからだけでは難しい。
それこそ、僕の体内に直接魔力を注ぐでもなければできないようなことだった。
例えばくちづけや、それこそ性行為などによって。
僕は子供だった。
加えて唯一の王族で、不用意にそのような接触を持たせられるはずもなく、余計に僕に、そんな方法など取れなかったことだろう。
なんとか死なずに生きながらせることそのものは出来ていたのだからなおさらだ。
成人を待って、伴侶とした者に任せる。そうして初めて、僕を治すことが出来るだろう。
それが父が下した判断だった。
23
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
【R18/短編】政略結婚のはずなのに夫がめちゃくちゃ溺愛してくる
ナイトウ
BL
溺愛王弟攻め、素直第2王子受け
政略結婚、攻めのフェラ、乳首責め、本番無し
〈世界観の雑な補足〉
何か適当な理由で同性の政略結婚がある。
【BL】【完結】神様が人生をやり直しさせてくれるというので妹を庇って火傷を負ったら、やり直し前は存在しなかったヤンデレな弟に幽閉された
まほりろ
BL
八歳のとき三つ下の妹が俺を庇って熱湯をかぶり全身に火傷を負った。その日から妹は包帯をぐるぐるに巻かれ車椅子生活、継母は俺を虐待、父は継母に暴力をふるい外に愛人を作り家に寄り付かなくなった。
神様が人生をやり直しさせてくれるというので過去に戻ったら、妹が俺を庇って火傷をする寸前で……やり直すってよりによってここから?!
やり直し前はいなかったヤンデレな弟に溺愛され、幽閉されるお話です。
無理やりな描写があります。弟×兄の近親相姦です。美少年×美青年。
全七話、最終話まで予約投稿済みです。バッドエンド(メリバ?)です、ご注意ください。
ムーンライトノベルズとpixivにも投稿しております。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】「愛してる」の呪い
愛早さくら
BL
「愛してる」そんな言葉一つで、どうしてこんなことが許されるというのだろう。どうして。
ルディファラはこのファルエスタ王国の王太子だった。……――ほんの、2年前までは。
2年前。突如、従兄弟が国王を殺し王位を簒奪した。ルディファラ――ルディはその直後、当の従兄弟に拉致するようにして王宮の一室に押し込められ、それ以来一度も部屋から出られていない。
ルディを監禁した従兄弟はルディに無理やり関係を迫った。当時16歳で少年でしかなかったルディは立派な体格をした年上の従兄弟に敵うはずもなく、今日に至るまで無体を働かれ続けている。
従者や女官にすらとも会えず、毎日毎晩抱き潰され、ベッドから起き上がることもままならない。
食事さえ抱かれてグズグズになっている時に無理やり摂らされていて、揺さぶられて目を覚まし、終わらない快楽の果て意識を失う。
疲れ果て弱った体は休息を欲し、日が落ちて、また、揺さぶられるまで目を覚ますことさえできず。繋がったまま、食事を摂らされ、また、意識を失う。
そんな日々が、もう2年も過ぎ去った。
「愛している」
唱えるように呟かれても、これをどうして愛と受け入れられるというのだろう。
その言葉はただの呪いだ。
死すら許されない終わりのない時間の中で、ずっと子供を望み続けていた従兄弟がついに、解放の条件を子供とした。
道具のように子供を作ることを強いられたルディは、果たして自分の自由のために新たな犠牲を生み出すことが出来るのか。それとも。
・上記のあらすじだと、若干内容とずれが発生しましたが気のせいです。
・突発的な投げっぱなしの短編の予定です。
・薄暗くってドシリアスで救いがなくて陰鬱としていて、エロい話が書きたかった、などと筆者は供述しており……
・数話は続くかもしれませんがそれ以上の続きなどない(*^ー^*)ニコッ!
・本文に既視感ありまくりかもしれませんが愛早の書くえろにバリエーションなど存在しません。
・婚約破棄され(ryの殿下も1歩間違うとこうなった……かもしれない。
・世界観が婚約破棄され(ryと同一で別の国のお話なだけなので、子供は同じ理屈で出来ます
・ビバ☆男性妊娠要素!!!Hey!
【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?
柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。
弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。
「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。
いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ??
受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。
※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。
※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。
【完結】見守り(覗き)趣味の腐男子令息は、恋人たちの交遊を今日も楽しく考察する
ゆずは
BL
とある学院には密会やなんやかんやに使われる秘密の庭園(狭め)がある。
そこは恋を実らせ深くしときには終わらせる場所になる。
誰もが知っている秘密の場所。
その庭園のさらに死角になる場所が僕の秘密の場所。
ここで僕は恋人たちの行く末を見守っているのです――――
……え?
覗きじゃないよ?
_______________
とある腐男子令息が目撃したなんやかんやに対して心の中でツッコミと考察を繰り返すお話です(1〜2話)
3話以降主人公君自身の恋話です
_______________
*息抜きにどうぞ
*主人公エロ思考しかしてません
*全編エロしかありません。色々苦手な方はごめんなさい。
*ゆるゆる設定なので、そのあたりツッコミ無しでお願いします…(;´∀`)
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる