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6・更に前の話の続き、女生徒。
しおりを挟むそんな、学園生活の、些細な話題の一つであったはずの『逆ざまぁ』なる単語を思い出したのは、それからしばらくして、僕の婚約者が、最近僕と親しくしている女子生徒の一人に、どうやらきついことを言っているらしい場面に遭遇した時のこと。
その女子生徒はミュリニエ・ミェシュアと言い、元々は庶子で平民として過ごしていたのだが、父親が爵位を継ぐと同時に子爵家に引き取ったという、最近貴族になったばかりのご令嬢で、元平民という珍しさと、平民ゆえの気安い態度、何より髪や目の色が僕と似ているという部分に親近感を覚え、昼食などを幾度か共にしたことのある女子生徒だった。
ミュリニエはとても小柄で、まるで幼子のようなかわいらしさを持っていた。
なのに気さくで朗らかで。接していると、小動物を愛でているような気分になれた。
「ユリィ様!」
なんて、明るく呼びかけられるのもくすぐったかったし、
「うわぁ、流石王子様ですね!」
なんて、些細ことで褒められるのも、全く悪い気はしなかった。
ちなみに、別に特別な好意を抱いていたわけでは全くない。何処までも、ただ、可愛らしいなぁと思ってみていただけだ。
ただ、確かに彼女は礼儀を知らず、僕のことも全く敬ったりしているような様子がなかった。
剰え時には、
「まったくもう、ユリィ様ったら!」
なんて、ぷりぷり怒って詰ってきたりする。そんな態度も新鮮で、僕はやっぱりかわいいなぁと思うばかり。
見かねた婚約者が彼女に苦言を呈するのも、何もおかしな話ではない。
それぐらいに彼女は、はっきり無礼だったからだ。
ただ、僕がたまたまその場に居合わせてしまった時、婚約者はいつになくきつい口調で彼女を詰っているように僕には見えた。
僕の婚約者というのはいつも穏やかな態度を崩さない、非常に優秀で見目麗しい、完璧と言っていいような存在だった。
勿論、出自もとてもよい。礼儀などにも当たり前に不足など何もない。
そんな婚約者が、声を荒げて彼女を詰っていたのである。
いったい何があったというのか。
おそらく彼女がまた、大変におかしなことを口にしたのだろうとは思った。
きっと僕を馬鹿にするような言葉だったのだ。
だから婚約者はあれほどに怒っているのかもしれない。
なにせ婚約者は僕のことを、とても大事にしてくれているのだから。
だが、彼女は全く自分が悪いだなどと思わないのか、僕の姿を見ると、
「あ! ユリィ様! この方、ひどいんです、私にユリィ様とお話するなっておっしゃるんですよ! 私とお話するのは、ユリィ様によくないからって!」
などと言って、やはり無遠慮に僕の腕にしがみついてきた。
その途端、婚約者が目を見開いて驚いたのがわかる。
僕は途方に暮れた気持ちで婚約者の方を見た。
婚約者は珍しいことに不快をあらわにしていて、余程、彼女の行動を許容できないのだということが明確に伝わってくるかのようだった。
あるいは彼女のこの様子を許す僕の情けなさに頭が痛くなる気持ちなのか。
「きっと私の方がユリィ様と親しいから嫉妬しているんだわ。見苦しい人!」
更に続けられた彼女の言葉に、僕はそう言えばと思い出したのである。
以前に聞いた大衆小説のお話はきっと、このようなことの積み重ねの上に成り立ったりするのだろうな、と。
例えば婚約者がもっと更に嫉妬に駆られて、ついには彼女によくない事をしたりして、それを防いだ上、仕返しをすることをざまぁ、などと言うのではないか。
僕は気が付けばそんな風にどうしてだか他愛無い想像を働かせていたのだった。
ちなみに婚約者というのは、別に一切変更などされていないのでラシェのことだ。
僕より体格のいい男性で、同時に僕の従兄弟でもあり、見目もとてもいい、完璧な存在。
ただし、僕に対して非常に過保護である所だけは、玉に瑕だなと僕は思っている。
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