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三
しおりを挟む玄貴妃は名を玄 淑佳と言い、俺から見ると異母兄の娘、つまり姪に当たる女性となる。
ただし、年齢は十と少しばかり、玄貴妃の方が上なのだが。
後宮では二十年近く前に少しばかり事件が起き、なんでもその事件を起こしたのが玄貴妃の叔母、俺から見ると異母姉であるらしい。
玄貴妃はその所為で18年前、叔母である前玄貴妃の代わりに、僅か13歳で入宮したという。
決して、実際の妃妾とはならないことを前提として。それでも、慣例として、玄貴妃の位を空けることは出来ないからと。
だから、なのだろうか。玄貴妃は弱々しく気鬱を見せるばかりで、ほとんど泣き暮らしているような状態であるらしい。今もこうして、俺に泣き縋っているように。周囲に自分の不遇を訴え、慰められることで日々を過ごしている。
その所為なのかなんなのか、この場所はひどく陰鬱な気配に満ちていて、ここにいるだけで、まるで俺の気持ちまで沈んでいってしまうかのようだった。
聞けば、現在の玄貴妃の居城である栗北宮はかつてとは比べ物にならないみすぼらしさとなってしまっているのだとか。
窓の開けられることのない、昼でも薄暗い室内。薄く炊かれ続ける、何かの香。そして玄貴妃のすすり泣く声と。そんなものに満ち満ちた栗北宮の中にある、玄貴妃の私室はまるで俺を暗い闇の中に、引きずり込んでいくかのようにさえ思われるほどだった。
ここでの俺の役目はただ一つ。
この玄貴妃を慰め、出来るだけ心安らかに過ごさせること。その上で彼女が何か問題を起こしたりなどしないように見張ること。そして何よりもあわよくば……――玄貴妃の代わりに、皇帝との子を、成すこと、だった。
聞けば長く、正后以外の誰の元にも通っていない、子も正后との間に出来た皇子一人きりしかいない皇帝との子を、だ!
全くどうかしているとしか思えない。
けれど俺は他国とは言え、貴族の出で、保有している魔力量も多く、また、だからこそ使い勝手がいいと考えられたのだろう。何より母に助力してくれるというのだから、断るすべなどなく、ここにいる。
この、誰も知り合いなどおらず、頼る相手もいない後宮で。自分の性別を偽ってまで。
全くあり得ないことにこの国は、どうやら男女の役割がはっきりと分けられているらしい。他国では性別ゆえの特色ぐらいで、そこまで重要視されないことの多い性別が、ここでは重要なのだそうだ。
曰く、妃妾は女性でなければならないのだとか。
特に子を孕み、産み落とすのは女性のみであるのだとか。魔力さえ有しているならば、性別など全く問題とならないというのに。
否、本当は皆理解しているのだ。少なくとも良家で教育を正しく受けた者ならば。きっとだから、俺に子を産めなどというのだろうから。
何処までも気が重くなる話にしか思えなかった。
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