上 下
234 / 236
続編的番外編

x-35・意外な反応とその後①

しおりを挟む

 ところで、危惧していたディルのことなのだが、いったい何を思っているのか、それとも何も思っていないのか、何故かそれから数日間、ディルは大人しいままだった。
 その上、ディルの代わりにと大公が寄越した人物を見て、思いっきり不機嫌も露わに眉を潜めはしたものの、暴言を吐いたり抵抗したりするわけでもなく、どこか諦めたように溜め息を吐いて、それだけで、なんとすんなり受け入れてしまったのである。

「あー……あのコクオーサマもビショーネンも、なんか企んでるって風ではねぇしなぁ。二人ともそんなことを考えられなさそうな小者だってぇことだ」

 などと、最後まで、代わりに来た者の眉さえひそめさせる、微妙な悪意をまき散らしていったけれどそれだけ。あまつさえ誰に向けてなのか、

「しばらくは近くにいるから、なんかあったら呼べよ」

 などと親切と言えなくもないようなことを言い置いて、どこかへ歩き去っていったのだった。
 俺たちの間には何処か拍子抜けしたような空気が漂って、でもラルもディーウィもオーシュも、皆が僅かなりほっと安堵したのが伝わってくる。
 余程、彼の相手を厭っていたということなのだろう。
 俺はあまり何も思っていなかったのでよくわからないが、これからはディルの所為で、彼らの機嫌が悪くならないのなら何よりだなと、そうは思った。
 ディルの代わりにと大公に命じられたとやってきたのは、大人しそうな青年だった。
 ごくごく普通の青年で、特に無礼ということもなく、また、すでにこちらが把握しているが故か、監視の役目を担っていることも隠さない。

「申し訳ございません、フィリス様とそのお父君の今後の動向は、こちらでも把握しておく必要がございまして……」

 それが今後も父を、この国に匿い続ける条件のようなものだということなのだろう。
 むしろ、当然のことだろうと頷いた。そもそも、これまでそういった者が父の近くにいなかったことの方がおかしいのだ。
 聞くとその青年曰く、母の元を訪れる存在はあまりにも様々・・で、逐一把握しきれていないというだけの話なのだそうだけれど。
 始めは父のことも、その内の一人としかとらえていなかったのだそうだ。
 だが事情が変わり、父は長くここに留まることになってしまった。
 一応様子を見ていたのだが、父と共にいた者が、ごくごく単純に働きに出るぐらいで、何かをしている様子もない。
 それでいったい今後どうしようかと扱いあぐねている間に、俺が父の今後の相談に乗りに来るという話を聞きつけ、ならばと、護衛兼監視を同行させようという話になったのだと教えてくれた。
 ちょうど国に戻ってきていた、普段は冒険者をしている異母兄がおり、庶子とは言え兄、他よりは信頼がおけるし、何より腕が経つのは間違いない、どんな理由で大公はディルに俺達への動向を申し渡しただけなのだという。
 冒険者をしているから、多少、態度が粗野だったりするかもしれないが、まさかあそこまで俺に敵意を向けるだなんて、大公は全く考えてもいなかったそうだ。
 信頼していただけに裏切られたと怒ってもいると青年は云った。
 要は大公に他意はなかったのだと主張したいのだろう。
 嘘だとも思わないので、それについては何か責に問うようなことはしないと青年からも大公に伝えてもらう。
 ディルに対してはこちらもそれ相応の対応を取っていたというのもある。
 無礼だなんだに関してはお互い様というものだろう。
 ラルが少しばかり不満そうだったが、俺はそれで押し切った。
 青年はそれでほっとしたようで、その後はこちらの護衛に混じって、俺たちに着いていてくれることになった。
 職務上、父に関して何かをする場合は、必ず彼を同行させなければならないが、他との違いなどそれぐらいだ。
 ラルたちも、信用するとまではいかないまでも、特に拒絶するつもりもないらしく、特に問題なく過ごせている。
 父の方は流石に順調とはいかず、はじめに危惧したとおり、父が変わることを良しとしないものが父の近くにいたようで、そちらの対応に少し、手を取られることとなってしまった。
 とは言え、その者は二人いた侍女のうちの一人、俺が初めて父の屋敷を訪れた時に出迎えてくれたのとは違う方の、父よりも年が上の侍女で、父のことは出来の悪い弟か何かのように捉えていたらしく、

「現状でもすでに陛下を、このような質素な状況でいさせてしまっておりますのに、それ以上などあまりに忍びなくて……」

 などと泣かれてしまっては、責めることなど出来るはずがない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

推しアイドルに認知されてました!

おーか
BL
類まれなるイケメンの推し様は、今や世間の女性たちを虜にしていた。 そんな推し様を人気のないときから推しつつけていた俺。 今まで対面の推し活はほとんどした事がなかった。けれどファンの増えた今なら一人くらい男(女装)がいても目立たないだろう、そう思って握手会に参戦することにした。 俺が握手してもらい、立ち去ろうとするも手を離そうとしない推し。 そんなアイドルとファンの物語。 時間は不定期更新です。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...