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続編的番外編
x-33・父の現状②
しおりを挟む「っ……! フィリスっ! なぜ、その男となんて……ああ、何もされなかったかい?」
宿に戻るなり、ディルが俺と共にいたことを知ったラルは、おろおろと不安そうに狼狽えた。
俺は緩く首を横に振る。
「何も。むしろ、」
いつになく大人しかった。
行きは相変わらずごちゃごちゃ言っていたが、帰りは違っていた。
俺がはからずもごちゃごちゃ言っていたよくわからないディルの発言を無視する形となったからなのかもしれないし、他の理由からかもしれない。
あるいは父の姿を見て、何か思う所が出来たのか。
よくわからないが、行きほど、よくわからないことを言ってきたりしなかったし、比較的会話も成立していたように思えたし、大人しかったのはいいことだった。
「そうかい? 何もなかったのならよかったのだけど……」
ラルが確認するようにちらと俺に着いてくれていた護衛に視線を向ける。
護衛の青年はそれを受け、一歩前に出て口を開いた。
「申し訳ございません、閣下。お伝えしに戻るか迷ったのですが、お二人にしてしまうわけにもいかず……」
「いや、いい。目を離さずにいてくれたということなのだろう? いい判断だったと思うよ。それで、本当に何も?」
「はい、見ている限りは特には。彼の方はなにやらいつものように、過ぎたお言葉を色々とフィリス様にかけていらしたようですが、フィリス様はそれにお応えになられておられませんでした。それもあってか特に帰りは、フィリス様も先ほどおっしゃっていらしたように、いつになく大人しい雰囲気でおられたように見えました」
だから問題らしい問題は起こっていなかったように見えたという護衛の言葉に、ラルは小さく頷いた。
「そう……なら、いいんだけど……」
それでもまだ、心配そうにしていたが、その辺りで思考を切り替えることにしたらしい。
「それで、お父君の方はどんな?」
続けて訊ねられ、俺は今度は少し迷った。
どんな、と聞かれると。
「どんな、と聞かれると……事前に聞いていた通りだな。父は父でしかなかったし、父を今、支えているのが老齢の侍従なのも間違いなさそうだ」
そのまま、他にも俺が新しく把握したことをラルに伝えていく。
元より隠すようなことでもないし、父から頼まれた、父の生活基盤を整えるだとかなんだとかは、意地を張ったりなどせず、素直にラルの助力も請おうと考えていた為だった。
そもそも、俺で乗れる相談など、それほどあるとは思えない。
俺は自分が、比較的、世間知らずであるという自覚があった。
なにせ育ってきた環境が環境だ。そして今は、特に不便を感じることもなくラルと共にいる。
ラルの伴侶、公爵夫人として社交を行わないわけでもないのだが、かと言って、それでそこまで世界を広げられたようにも思えなかった。
そもそもラルは、俺が積極的に外に出るのをあまり好まず、俺自身も、子供たちが可愛くて、出来るだけ傍にいたいというのもあって、要は社交など最低限、この11年間を、半ば自主的に閉じこもるように過ごしてきたのだから広がる世界などあるはずもない。
結果、俺は世間知らずなままなのだ。
それでどうして父の相談に乗れるというのか。
俺はおそらく、俺に相談するよう父に言ったという伯父の狙いも、実際は別な所にあるのではないかと考えている。
出発前に伯父と通信魔導具越しに話した時にもそう感じたので、おそらく間違いないことだろう。
敢えて言うのなら父の意識改革、とでも言えばいいのだろうか。
それをこそ期待されているとしか思えなかった。
もっともあの父が、ならば俺の言うことをいったいどれぐらい聞くというのだろうかと思うと、全く自信などありはしなかったのだけれど。
むしろ父の周囲の人間を確認し、助力を願う方が早い気がした。
否、俺に期待されているのもそちらなのだろうか。
いずれも憶測の域は出ず、今、俺が出来るのは、ラルと情報を共有することだけだった。
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