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続編的番外編

*x-19・二人きりの馬車にて⑥

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 がくがくと揺さぶられる。
 途中からここがいったいどこなのかなんてことは、すっかり俺の中からなくなっていた。
 初めに結界を張っておいてよかった。それに尽きることだろう。

「ぁっ、ぁっ、ぁあっ、ぁん、んんっ、ぁあっ! ぁふっ、うっ……ぁあっ!」

 俺は腹の中をラルに大きく穿たれる度、あられもなく喘ぎ続けていた。

「ぁっ、ぁあ、あっ! も、っとぉっ! ぁっ! ゃんっ、そこぉ! ぐっ、あっ!」

 上擦った声はラルの腰の動きに合わせて揺れ、ひぐっと時折、喉が引き攣れる。
 ともすれば息が上手く吸えなくなるのは、あまりに感じすぎているからだ。
 パンパンと、肌と肌のぶつかる音がする。
 俺のお腹の中はラルでいっぱいで、ゆさゆさと浅く、焦らすように揺さぶられたかと思うと、勢いよく奥に押し込まれ、ぐぼっと、あり得ない音が鳴ってそうな感覚と共に、お腹の奥の突き当りの壁のようなものを、何度も何度も打ち破られた。
 それをされてしまうと、後でお腹の奥の違和感がひどくなるし、俺の頭はすぐに真っ白になってしまうのだけれど、いかんせんラルのそれは大きすぎて、全部入れられてしまうとどうしてもそこは、容易く突き抜けてしまう。
 だから俺はいつもそのわけのわからない気持ちよさに、身も世もなく身悶えるばかり。今も。

「あっ、あっ、ぁあああっ、がっ、あっ!」

 口が、喉が閉じられない、悲鳴のような喘ぎ、頭が真っ白になる。
 ラルが激しく腰を打ち付けてくる。ぐぼっ、ぐぼっ、ぐちゅ、ずちゅん。お腹の中、全部をどこもかしこもラルに擦られて、気持ちよくて堪らなくて。何度そうして奥深くまでを犯されたのか、ラルがどくどくと、精を吐き出しているのが感じられた。

「ぁあああ……」

 ああ。
 体の奥の方からどばっと、ラルの魔力があふれ、広がっていく。
 俺の体の隅々にまで、ラルの魔力が満ちていく。
 ああ、気持ちいい。
 意識が飛びそうなほどの忘我。
 ラルはしばらくそのまま、俺を強く抱きしめていたかと思うと、最後まで注ぎ切ったのか、小さく腰を揺らし、ずるぅ、俺の腹の中を容赦なく擦りながら、その長大なラル自身を、俺から抜き去っていってしまった。

「あぁぁあぁ……」

 喪失感と特有の震えるような快感に身悶える。
 奥を容赦なく突かれている時とはまた違ったそれは、終わりに近い時にしか感じられないほんの少しの寂しさを伴った快感で、どうやらラルは、今はこれ以上するつもりがないらしいと悟らざるを得なかった。

「あぁ……」

 ほぁっと吐いた息が、あまりに寂寥を孕んでいたからか、ラルがくすっと小さく笑った気配がして。

「フィリス……そんなに名残惜しそうな顔をしないで。止まらなくなる」

 そんな風、苦言を呈されてしまう。

「ぅん、」

 俺は物凄く納得はしていないという雰囲気を隠せないまま、だけど小さく頷いた。
 だってわかっている。
 ここは走る馬車の中なのだ。
 多分もうじき、目的地としている鉄道駅に着いてしまう。
 何よりこの状況で、更にこれ以上が難しいことなんてわかり切っていて。
 だけどそれでも寂しく思ってしまうのは、こういった行為の後に、決まって感じてしまうそれだった。
 ラルがちゅっと、額にくちづけたのがわかる。
 それが俺を宥めるようなものなのも。

「フィリス。流石にもうすぐ着いてしまうから」
「ん」

 言いながらラルが、絶頂の余韻にぼやっと惚けている俺の衣服を、手早く手慣れた様子で整えていってくれた。
 そしてしっかりと座席に座らせてくれる。
 そのまま向かいの席には戻らずに俺の隣に腰かけてきたのは、俺の様子があまりに覚束ないように見えたからなのだろう。
 案の定、皺だらけになっている服が目に入って、俺はぼんやりしたまま適当にさっと魔術で直してしまった。勿論、ラルの物も一緒に。
 ラルは一瞬パチと瞬きして驚いて、だけど次いでふわと顔を綻ばせた。

「相変わらず、フィリスの魔術は見事だね」

 そんな風、褒められると悪い気はしない。
 俺はまだ半ば惚けたままだったけど、小さく唇を噛んで俯いた。
 頬が熱い。照れくさい。

「…………んなの、大したこと、ない……」

 ようやく押し出した声は、少しだけ普段の調子を取り戻していて、ラルがそれを聞いてだろう、どこかほっと安堵したようなのがわかった。

「よかった。これなら間に合いそうだ」
「?」

 いったい何が間に合うのか。わからず首を傾げる俺へと、支えるように手を回したまま、ラルが小さく苦く笑った。

「いや、だってもうじきつくのに、そんなあからさまに何をしていたかわかる顔のままだと流石に……僕も、まぁ、夢中になってしまったんだけど……」

 俺の様子があまりにも普段と違い過ぎていたからなのだろう。とは言え、いつもラルに見せている姿ではあるのだけれど。
 確かに、と俺は頷いた。
 ディーウィやオーシュはともかく、流石に子供達や侍女、護衛達に対しては、そんな姿を見せるのは、あまり良くはないだろう。
 何よりディルがいる。
 俺とラルが馬車で二人きり、いったい何をしていたのか。
 もしそれをディルが知ったら、彼がどんな反応を見せるのか。
 それは俺にはまったく予想がつかなかった。
 だが、間違いなく良くはない反応なのではないかとしか思えなくて。なら、俺が、普段通りを取り戻せそうなことは、安堵するようなことなのだろうと俺にも思えた。
 意識して、気持ちを落ち着け、少しだけ手中して、体の調子を戻していく。
 ラルとの行為の後特有の気怠さだとか、案の定じくじくと疼くように痛む腹の奥の感触だとか。それらはラルに愛された証のようで、愛しくて、本当はそのままにしておきたいのだけれど、そんなものを感じたままでは、流石にいつも通りなんてとても装えそうもない。
 だから仕方がないと、惜しみながら全てを治した。
 ラルと愛し合った痕跡が消えていく。
 自分でそうしていながら、それがなんだか寂しいだなんて。

(俺は本当に我が儘だなぁ……)

 苦く思った俺を、それを悟ったのでもないだろうにラルはぎゅっと抱きしめるように、俺へと回した腕へと力を込めてきて。その力強さがなんだか愛しくて、俺は少しだけ笑ってしまった。
 心がふわふわと温かい。
 ラルがいる。
 それをこんなにも心強く感じるなんて。
 馬車の中で先程のよう、体を合わせたのは、初めの時以来、つまりは10年、否、11年ぶりぐらいになる。
 その11年の自分の変化が、なんだか不思議で。
 でも、悪くない。
 そう思って俺は、鉄道駅へと吐くまでの短い時間、そっとラルにもたれかかって過ごしたのだった。
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