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177・茶会の後⑤
しおりを挟むそのまましばらく寛いでいると、次に部屋へと入ってきたのはラルだった。
時計を見るとちょうど終業するぐらいの時間で、仕事を切り上げたのだろうことがわかる。
「フィリス! 今日は大変だったみたいだね」
言いながら近づいてきたラルが、ごく自然な動作でさっと俺の隣へと腰かけた。
「大丈夫? 無理はしていない?」
続けて言いながら顔をのぞき込まれる。俺はなんだかくすぐったくなってくすりと笑った。
「無理なんてそんなの……ただのお茶会なのに」
ラルはいったい何をどう聞いたのか。
多分お茶会中の会話なども、おおよそは勿論、耳に入っているのだとは思うのだけれども。
「いや、あの人選だったし、仕方がないのはわかるんだけど、かなりひどかったらしいじゃないか。君が珍しく随分と言葉を尽くしていたというのに、ほとんど話が通じなかったのだとか……」
言われて俺は小さく笑った。
同時に、どうやらラルの持つ印象としても、俺は言葉を尽くすタイプではないらしいと悟る。ある意味、当然と言えるのだろう。なにせ普段の俺ならほぼ確実に、言葉など重ねず放置するだろうから。
「そういった意味なら、ま、確かにひどかったけど……あの人達が今後どうなっても、言ってしまえば俺はあんまり関係がないし」
そもそも話の通じない相手の言葉など、聞く耳を俺は持っていないのだから、なんということもない。
「なんだかよくわからないことをたくさん言っているなぁとは思ったし、多分、こういうことがしたいんだろうなってことぐらいなら伝わってきたけどね」
だからと言って、彼らの思う通りにこちらが従う理由はないし、従うつもりもない。酷いとは言っても結局は所詮は言葉だけ。
具体的に害されたわけでもなければ、当然無理をするような状況にもなかった。
「そんなこと言って……それでも疲れはしただろう?」
「そりゃ、ね」
疲労について指摘されたら、確かに俺はそもそも、あのような場自体が不慣れで。
気を張らざるを得なかったし、その上で慣れない反論までして、疲れていないと言えば嘘だ。
「でも、必要だったろう?」
勿論、今日のことがなくたって、彼ら彼女らは結局、遅かれ早かれ同じ結末を迎えるのだろうとは思う。
ただ、今日の言動があれば、少しばかり早く事態が動くだろうことは確かで。
その為の今日だったのだから、つまりあのような発言ばかりだったのは、こちらとしても助かる状況だったのは間違いないのだった。
「必要って……そこまでじゃないよ」
君が疲弊してまで必要だったわけじゃない。
そんな風、困ったように告げるラルは、やはりどうにも心配性だと、俺は思うばかりだった。
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