上 下
179 / 236

177・茶会の後⑤

しおりを挟む

 そのまましばらく寛いでいると、次に部屋へと入ってきたのはラルだった。
 時計を見るとちょうど終業するぐらいの時間で、仕事を切り上げたのだろうことがわかる。

「フィリス! 今日は大変だったみたいだね」

 言いながら近づいてきたラルが、ごく自然な動作でさっと俺の隣へと腰かけた。

「大丈夫? 無理はしていない?」

 続けて言いながら顔をのぞき込まれる。俺はなんだかくすぐったくなってくすりと笑った。

「無理なんてそんなの……ただのお茶会なのに」

 ラルはいったい何をどう聞いたのか。
 多分お茶会中の会話なども、おおよそは勿論、耳に入っているのだとは思うのだけれども。

「いや、あの人選だったし、仕方がないのはわかるんだけど、かなりひどかったらしいじゃないか。君が珍しく随分と言葉を尽くしていたというのに、ほとんど話が通じなかったのだとか……」

 言われて俺は小さく笑った。
 同時に、どうやらラルの持つ印象としても、俺は言葉を尽くすタイプではないらしいと悟る。ある意味、当然と言えるのだろう。なにせ普段の俺ならほぼ確実に、言葉など重ねず放置するだろうから。

「そういった意味なら、ま、確かにひどかったけど……あの人達が今後どうなっても、言ってしまえば俺はあんまり関係がないし」

 そもそも話の通じない相手の言葉など、聞く耳を俺は持っていないのだから、なんということもない。

「なんだかよくわからないことをたくさん言っているなぁとは思ったし、多分、こういうことがしたいんだろうなってことぐらいなら伝わってきたけどね」

 だからと言って、彼らの思う通りにこちらが従う理由はないし、従うつもりもない。酷いとは言っても結局は所詮は言葉だけ。
 具体的に害されたわけでもなければ、当然無理をするような状況にもなかった。

「そんなこと言って……それでも疲れはしただろう?」
「そりゃ、ね」

 疲労について指摘されたら、確かに俺はそもそも、あのような場自体が不慣れで。
 気を張らざるを得なかったし、その上で慣れない反論までして、疲れていないと言えば嘘だ。

「でも、必要だったろう?」

 勿論、今日のことがなくたって、彼ら彼女らは結局、遅かれ早かれ同じ結末を迎えるのだろうとは思う。
 ただ、今日の言動があれば、少しばかり早く事態が動くだろうことは確かで。
 その為の今日だったのだから、つまりあのような発言ばかりだったのは、こちらとしても助かる状況だったのは間違いないのだった。

「必要って……そこまでじゃないよ」

 君が疲弊してまで必要だったわけじゃない。
 そんな風、困ったように告げるラルは、やはりどうにも心配性だと、俺は思うばかりだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

推しアイドルに認知されてました!

おーか
BL
類まれなるイケメンの推し様は、今や世間の女性たちを虜にしていた。 そんな推し様を人気のないときから推しつつけていた俺。 今まで対面の推し活はほとんどした事がなかった。けれどファンの増えた今なら一人くらい男(女装)がいても目立たないだろう、そう思って握手会に参戦することにした。 俺が握手してもらい、立ち去ろうとするも手を離そうとしない推し。 そんなアイドルとファンの物語。 時間は不定期更新です。

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...