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169・開いた茶会にて⑬

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 話が通じない存在なんて、コリデュアの王妃だけで充分だ。あんな人物は何人も要らない。だっていたら迷惑この上ないだろう。
 だが、今のところ目の前の侯爵夫人は、どう控えめに考えても彼の王妃と大差ない人物にしか見えなかった。
 多分ほかの7人も同じ。招待状を見ただけで選別して見せたラサスやラルの観察力・・・は正確すぎると言わざるを得ない。
 それとも、高位貴族ともなるとそう言った事情・・・・・・・を把握しておくのが必須だったりするのだろうか。あるいはただ単純に彼らがわかりやすいだけなのか。
 そしてそんな彼らを対処しなければならないのが俺。うんざりするというのが正直なところ。
 とは言え、これはおそらく俺の仕事と考えていいのだろうとそう思う。
 ま、どのように対処しても構わないと聞いているので別にいいと言えばいいのだけれど。
 心の中で小さく呟いた。
 そもそも、届いた招待状は俺宛てだった。ラル宛てではない。
 ラルは過保護なのでいっそ全部無視していいとまで言っていたけれども、そんなわけにはいかないだろうことは明白で。
 俺も流石に全部をラルに委ねるのは違うと思ったのだ。
 それに実際ラルに言ったように、今ここで彼らを野放しにはしない方がいいと判断した。
 こうして集まった8人を見ていると、自分の判断は間違っていなかったようだとつくづく感心するばかり。
 高位貴族には責任が伴う。否、高位かどうかなど関係なく、立場ある者ならばどのような存在であっても、だ。
 子爵や男爵、商人や他の者だって例外ではない。
 それぞれが自身の立場や職に対して責任を持たねばならなかった。
 言うならばこうして茶会などを開いて、全く気が進まない社交を試みていることこそが、つまり公爵夫人としての責任の一つだということだ。
 少し前に王宮での夜会に参加したのも同じ理由。
 そして責任があるならばだからこそ視野が狭く、物事が正確に見られないままでなどいいはずがなく。
 そういった意味で彼らは全くそれぞれの立場に、為人ひととなりが見合っていないことが明らかだった。
 侯爵夫人はまだまだ気分を害したような顔をしたまま。それを隠す素振りさえ見せない。
 取り繕うことすらできないのか。思えば溜め息の1つも吐きたくなる。
 これで侯爵夫人。
 否、だからこそ・・・・・なのかもしれない。
 少なくとも王妃は元々侯爵家で甘やかされて育ったが故にああなった・・・・・ようだった。
 なので、高位貴族であるからこそ・・という部分があるのかもしれない。
 その辺りは俺にはわからない感覚だけれども。
 侯爵夫人がギリギリと怒りも露わな様子で俺を睨みつけている。

「貴方っ……いったいどれほど私をコケにすれば気が済むのかしら? 所詮は下賤な生まれの癖にっ」

 そして吐き捨てられた言葉。結局まだまだ言動が大きく変わらないのは本当にどういうことなのだろうか。
 どこまで言っても俺の話など、聞いていないのだなと痛感する。
 少なくとも、あれほどはっきり告げたつもりだったのに、全く意図を理解していない。
 なら、このあと更にどう言葉にしていけば伝わるというのだろうか。
 あまりにも成り立たない会話に、俺は半ば途方に暮れていた。
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