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168・開いた茶会にて⑫
しおりを挟むナウラティスの魔女は有名だ。数十年前ならいざ知らず今や近隣諸国の貴族でその名称を知らない者などいないだろう。
悪名と功績と。両方が広く知れ渡っている。嫌悪と侮蔑と賞賛を込めて。出自故に誰も無碍にできず、しかし行状ゆえに眉をひそめられる存在。そして成した功績には憧憬が向けられた。
我が母ながら複雑な存在だった。
そして俺はそんな母が産んだ子供で。一目見ただけでわかるぐらいに俺は母に似ていて、実際に父親がどうあれ、それだけは揺るぎない。
全く何も嘘ではなく、全て事実だった。
彼らがいったい誰からどのような噂を聞いていようとも、俺が今、話したことこそが正しい。
もし少しでも異なる所があるとしたら、それはただの妄言ということだ。
もっとも、そこまで言っても伝わらない可能性があるのが、つまり無能が無能である所以なのだが。
ここに居る8人は正しく無能であるようだった。
一番ひどいのは侯爵夫人だが、他の者だって、気分を害したとばかり、眉根を寄せていたり、疑わしいとばかりこちらへ視線を寄越していたり。
そんな中で僅かばかり怯えている風なのがおそらくは一番ましな反応。何某かの心当たりがあるのかもしれない。
頷かんばかりの納得したような顔をしている遠い席の二人がつまり一般的な反応と言うことが出来るのだろう。逆に言えばそれ以外だと異常と称して問題ないということでもあった。
つまり、今の話を聞いてなお懐疑的な視線を俺に向けることが出来ている時点でどうかしている。
「なら貴方は継母とも言えるコリデュアの王妃がおかしなことを言っているとでもおっしゃるの? それこそ、失礼というものではなくて?」
だというのに先程の俺の言葉を聞いていなかったのか何なのか、この期に及んでまだそんなことを口に出せる侯爵夫人に、言葉が通じないというのはこういうことを言うんだなぁと俺は思うばかりだった。
この人は本当に何を言っているのか。アティクシーエ伯爵も、クワシュティン子爵令嬢も首を縦に振っているようだが、何故それに頷けるのか。遠い席の二人が、うわぁとでも言いたそうに、信じ難い物を見る目で三人を眺めているのだが気付かないのか。……気付かないのだろう。
この侯爵夫人が、コリデュアの王妃という地位にいったいどういう価値を見出しているのか全く分からない。類は友を呼ぶというあれか。
ひとまずは少なくとも。
「先程からそう言っているつもりでしたが、通じておりませんでしたか? 失礼なのはコリデュア王国の王妃殿下の方なのですが」
と、言うか、先程の俺のセリフを本当に聞いていなかったとでも言うのだろうか。これも通じなかったらどうしよう、俺は一瞬、不安になった。
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