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105・予兆⑩

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 俺は頷いて、続けてラルに質問していく。

「王宮からの呼び出しの理由として、コリデュア以外の心当たりはないのか?」

 なにせ俺はアンセニースの王宮のことなんて何も知らない。別にコリデュアの件だけが理由だったとしても、何も不自然なことはないのだけれども、アンセニースで生まれ育ったラルなら、俺の予想もつかない理由も思い至っているのではないかと、念のために確認したかったのだ。
 ラルはうーんとしばらく考えて。

「王家とリヒディル公爵家の仲は良好と言っていいんだ。僕自身、今の国王陛下や王妃殿下、王太子殿下とは親しくさせてもらっている。特に、数年前に即位した陛下は私の学園での先輩にあたる。後輩としてかわいがってもらったよ。だから、もしコリデュア以外に理由があるのだとしたら、おそらくは単純に僕の相手に興味があるだけだとかの可能性はあるよ」

 と教えてくれた。
 ただの好奇心ということなのだろう。だが、もしただの好奇心だと考えるのなら、それにしてはやけにしつこいのは確かで、だからこそラルも警戒せざるを得ないのかもしれないと思った。
 概ね納得できる話だ。
 特に襲撃や毒物の混入の件もある。しすぎるほどに用心するに越したことはない。むしろラルの警戒はもっともなものとすら言えるだろう。
 話を聞いて、俺に伏せていて理由は、あくまでもラルの気遣いなのだと理解した。
 それ自体、特に悪い気はせず、自分も随分と単純になったものだと内心で驚く。
 もっとも、元々ラルが俺に王宮からの呼び出しを伏せていたことに対しても、別に怒っていたわけではなかった。
 ただ理由がわからず、ならば問いただすしかないなと思っただけで。ラルが俺に隠し事の一つや二つしていたとして、怒るようなことだとは思わない。そこまでの束縛なんて、どうにも俺からは程遠いばかりで、だから別に隠されていた、伏せられていたこと自体は大きな問題だとは思っていなかったのである。
 だが、知ってしまった以上は俺もせめて事態の把握ぐらいには努めなければならないと思った。
 ラルが隠したがっているのだから、知らぬふりでこうして理由を暴いたりしないという選択肢もあるにはあったのだけれど、これから先このままアンセニースでリヒディル公爵邸に住まい、ラルの伴侶として生きていくことを考えると、王宮からの接触は蔑ろにしない方がいいのではないかと判断したに過ぎなかった。
 否、たとえこの先どのような状況になったとしても、ラルの意思の確認だけは怠らない方がいいと考えたのだ。
 そんな思考はまるで、出来るだけこの先もラルに添って生きたいと、いつの間にか俺自身が思うようになっていた証のようにも感じられたのだった。
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