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95・暇を持て余す②

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 そこから更に数日。
 今の所あれ以降、俺に出された食事に何かが混入していたことはない。
 加えてもともと襲撃が俺にまで届いたことはなく、なんとも平穏な日々が流れていた。

「暇だな……」

 すっかり定位置となってしまった、例のサンルームのある居間のような部屋のソファへとだらりと腰かけて、ぼんやりと天井を見上げながら呟く俺に、オーシュはあからさまな溜め息を吐いた。
 この屋敷は公爵邸らしく広大で、勿論、他にも部屋は幾つもある。
 にもかかわらず、ほぼ必ずこの部屋を使用するのは特に場所にこだわりがないからと、ここから見える中庭の景色が気に入っているからだった。
 あるいはただなんとなく、自然と足がこの部屋に向かっている。
 ラルはそんな俺に、

『この家で、気に入った場所が出来たのならよかった』

 と笑っていた。
 なお、この部屋はラルも気に入っている場所の一つなのだそうだ。
 だから俺のことも此処に通したのだということで、なるほど、ラルも居心地よく思う部屋なのか。と納得すると同時、自分ともしかして感覚が近いところがあるのかもしれないと何ともくすぐったい心地になった。
 ともあれ、今は暇なのである。
 やることが何もないのはむしろ苦痛だ。

「あー、なんだ、本でも読むか?」

 困り切ったという風にオーシュがそんな提案をしてきて、俺は緩く首を横に振った。
 この屋敷には当然、図書室も資料室も存在する。
 資料室の方は、流石に遠慮したのだが、図書室には数日前に足を運んでいた。あまりに退屈だったので、本でも読もうと思ったのだ。だが、予想よりも目新しい本が少なかった上、めぼしいものはすぐに読み終わってしまった。

「もう読んだ。読む本がない」

 ため息とともに呟くと、オーシュが弱った気配を漂わせ始める。

「お前、本読むの早いもんな……」

 多分彼自身はそう言ったことが苦手だからなのだろう。こと、そう言った話題の時はオーシュはなぜか常にどこか自信なさげだ。

「コリデュアでの数少ない出来ることだったしね」

 単純に読み慣れているというのもあるのだ。
 なにせコリデュアの王城の本には一通り目を通している。
 ナウラティスでも同じで、ただ、ナウラティスの王宮にしろ学園にしろ魔術師塔にしろ、量が比べ物にならなかったので、それらの図書館や図書室に蓄えられた大量の書物に一通り目を通すには、それなりの時間がかかったのだけれど。

「フィリス様は勤勉ですからね」

 小さく笑いながらディーウィが補足した。ちなみにディーウィの方はそういったことも全く苦手としていない。逆に単純に武力という点においてはあまり自信がないようで、オーシュとは互いに不向きな部分を補い合っているようなのだった。
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