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93・提案

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 ラルが怒るのも当たり前の話だ。

「心当たりとかはある?」

 確認されて、少し前にオーシュに伝えたのと同じことを伝える。
 つまり配膳係と調理場の者と出入りの業者。
 俺の言葉にラルは頷いた。

「なるほど。それぐらいは絞り込めてるってことだね。じゃあ、その先はこちらに任せて欲しい。大丈夫。悪いようにはしないよ」

 にこと笑って請け負ってくるので、俺は躊躇いながらも頷いた。
 ラルがそういうのなら、任せてしまって構わないだろう。オーシュを見ると、彼も頷いている。
 そもそも雇い主がリヒディル公爵家である以上、最終的にはラルの判断を仰ぐことになったのだろうから、どの段階からというぐらいの違いしかないと言えた。

「それにしても……まさかこの家の中でそんなことが起こっていたとはね。随分と舐められたものだ。この返礼・・はよく考える必要があるなぁ」

 ふふと笑うラルは、笑っているからこそなんだか恐ろしくて。なるほど、ラルは怒るとこうなるのかと興味深く眺める俺の手を、ラルはようやく解放した。
 離れた体温が少しだけ寂しい。
 離れたと言っても、それは手だけのことで、いまだ隣に寄り添ったままだというのに。

「ごめんよ、フィリス。せっかくこうして君を迎え入れられたというのに……この家さえ、君にとって安全じゃないだなんて」

 嘆くラルに、なんだか俺は申し訳ない気持ちになる。

「えっと、いや、でも、本当に毒は大丈夫で……だから俺にとってこそここは安全じゃないわけじゃないんだけど……でも、もし被害が俺の周りとかにまで及んでたりしたらって考えると、俺以外は安全じゃないかもしれない、かな……」

 多分、いずれにせよ被害が大きくなるのは俺ではなく、俺以外だったろう。むしろ今の段階で、俺以外が間違って毒物を口にしたりしていないようなことの方が幸いだ。

「フィリス。そういう問題じゃないんだよ、わかっているだろう? 彼らの疲労もある、やはり、君の私室だけでも結界を張るべきじゃないかと思うんだけど……僕が、君に近づけなくなることが気になるというのなら、僕がいない時だけでもいい。その方が僕も安心だしね」

 ラルの言葉に、確かに、ラルが側にいない時だけならなくもないかと考えてみた。

「明日は流石にラサスから逃げられなさそうだから、僕はどうしても日中、君と離れなければいけない時間が出てくる。せめてその時だけでも。どうかな?」

 そこまで言われては、そもそも俺としても、絶対に結界を張りたくないだとかいうこだわりがあるわけでもないので、なら、ラルがいない時だけはそうするといいかと頷いた。
 オーシュもディーウィも何も言わず、どうやら彼らも賛成なようだった。
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