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89・俺の話⑪
しおりを挟む俺は幸運だったのだろうとそう思う。
ただ生きているだけだったのに、伯父に見つけてもらえたのだから。
「見かねた伯父は俺をナウラティスに連れて行った。ちょうど年齢的にも学園に入れる年だったから、留学って形にしてね。『このまま引き取ろうかと思ったんだけど、一応きみ自身の意思も確認した方がいいかと思って、立場はコリデュアの第一王子のままにしてあるよ』って伯父が言って、留学になったんだって。もっと小さければ逆に選択肢なんて残さなかったとも言っていた。正直な話、俺にはどうでもよかった」
「自分のことなのに?」
「そう、自分のことなのに」
聞き流せなかったのだろう、ラルからの確認に俺は頷いた。
でもその先を続けるのをほんの一瞬、躊躇する。だけどすぐに、否、むしろラルには知っておいてもらった方がいいだろうと思い直した。
「12歳ってさ、結構おっきいんだよね。人格形成って言ったらいいのかな、そういうのはほとんど終わってる。俺は時折、父に構われるのと、王妃に罵倒される以外では誰とも触れ合わずにそれまで育った。誰かに何かを教えてもらうこともなく、何かしなければいけないこともなく、生きてるだとか死んでいるだとか、そんなこともよくわからないまま、日々を過ごしていた。痛いことは嫌いだから、自分のことを治したし、まずい物よりもおいしい物の方が好きだから、おかしな味の食べ物は変化させた。辛いだとかしんどいだとか苦しいだとかも思ったことがなかったから、悲観するようなことだって何もない。何もないから、ただ、生きていた。なんとなく、意味もなく」
本当につまらない日々だったのだと、今ならわかる。だけどそれは確かに12歳までの俺の日常で。
「俺は何かしたいこともなければ現状を変えたいとも思ってなかった。でも、なら伯父に逆らって抵抗するほど、今に固執しているわけでもない。だから、伯父が強引に父に許可を取り付けて、そのまま俺をナウラティスまで転移で連れて行った時も別に抵抗したりせず、おとなしく従った。だってどうでもよかったから。ナウラティスでもコリデュアでも、場所にも興味はなかったし、伯父そのものにも関心が向かなかった。ただ、不思議だとは思ってたけど。だって伯父は父と王妃を除いて、一番初めに話しかけてきた人だったんだ。わけがわからなかったよ。でも、ならそのわけがわかりたいのかってなると、それはやっぱりどうでもよくて」
俺にはこだわりなんて何もない。それは実際の所、今もだ。
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