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87・俺の話⑨

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 静まり返る三人に構わず、俺は話しを続けていく。

「そもそも流石に5歳以下の小さい子供は、誰かの世話がないと生活できないしね。だから誰かが世話をしてくれてたんだろうとは思うけど、全く覚えていないんだ。俺は気が向いた時にどこででも適当に丸くなって寝て、お腹が空いたら厨房で適当な物を貰って食べた。俺用に何かが用意されていることは稀で、用意されている場合は大抵、変な味がした。多分、それは全部毒だったんだと思う。厨房の人間が俺をどう思っていたのかなんて知らない。貰うって言っても、勝手に無断で盗ってたんだ。食べ物で、空腹を紛らわせるものなら何でもよかったから、庭とかで何か果物を勝手にもぎって食べることもあった。服も、多分使用人用だと思うんだけど、備品室みたいなところがあって、そこから取って着てた。洗濯は使用人とかが汚れ物を出す所に一緒に置いておいたら多分洗濯係とかだと思うけど、勝手に洗って備品室っぽい所に戻してたみたいだったし、風呂も同じで、使用人用の浴場を勝手に使ってた。そういうのが出来た辺り、誰かに教えてもらったりしたとは思うんだけど……やっぱりそれも覚えてない。俺の行動を妨げる者は誰もいなくて、そんなの王妃ぐらいのものだった」

 本当に誰にも構われなかったのだ。あの王城で、俺は透明人間か何かのようだった。
 俺は好きに生きていた。それしか知らないから困らなかった。
 やらなければならないことは何もなくて、何をしても自由で。俺は心が思うままに振舞った。
 それはさながら、王城に住まう野生児か何かだったのではないかと思う。
 それでも、他の誰かのやることに倣って、食事や風呂や着替えをしていたのは、もしかしたら無自覚に、寂しいと思っていたのかもしれない。それとも誰かにそうするように言われでもしたのか。その辺りはよくわからない。

「父は俺がどんな服を着ていて、どんな場所にいても、全く何も気にしなかった。多分、目に入ってなかったんだと思う。俺の顔は、母に似ているって言って褒めてたから見えてたと思うけど、それ以外は認識してなかったんじゃないかな。だって俺、使用人と同じ格好をしてたんだ。王城には使用人見習いとかで何人か子供がいて、服とかは、そんな彼ら用の物を着ていたみたいだから」

 つまり父は知らず、俺の状況を容認していると周囲に見なされたのではないかと思う。王妃の意向もあったのだろう、俺はあの王城の中で、本当に全く空気のようなものだったのだ。
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