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58・毒物①
しおりを挟むそれでなくとも、今、俺の腹の中でなったばかりの、まだまだ安定していない子供のことも考えると、ラルと離れる選択肢など、選べるはずもなく。
俺の言葉に、一瞬眉をひそめたラルだったが、すぐににっこりと笑って頷いた。
「そうだね。僕も概ね同じ意見だよ。少なくともフィリス。君がどこかへ行くだなんてことはあり得ない」
「そうだぞ。俺達を何だと思っているんだ。お前の護衛と従者なんだ。なんでお前と離れられると思うんだよ」
当たり前に険しい顔をしたオーシュは咎めるように畳みかけた。
ディーウィも同じような表情で頷いている。
俺は肩を竦めた。
「でも、お前たち二人が疲れているのは本当だろう? かと言って、護衛も従者もそう簡単には増やせない。もし増えたところですぐには信用できないし、それじゃ意味がないからな。むしろ目を光らせなければならない相手が増えて、より負担になるだろう。今の状況じゃ得策じゃない」
ならラルが言うように結界を張ってしまうか。それは一つの案ではあった。
別に二人が休んでいる間だけ、俺がそこにこもっているだとかでもいいのである。二人が案じているのは結局、俺が害されることだけなのだから。
そんな俺の意見に、だけどオーシュは首を横に振って溜め息を吐く。
「いや、駄目だな。俺たち二人を気遣ってくれてるってのはありがたいけど、こんぐらいでどうにかなるほどやわじゃねぇよ。それにさっきラル様が言った、今更結界を張るってのも、そんな方法じゃほとんど意味なんてないだろう。いや、犯人探しには役立つとは言える、か? でもなぁ……」
そんなことを呟きながら、腕を組んで悩み始める。
と、ここで、今まで一言も口を挟まなかったディーウィが、この状況に相応しくない表情でにっこりと笑った。
俺はその笑顔に嫌な予感がする。今、交わされている話の流れも含め、今、ここでそんな表情を浮かべる意味なんて多くはない。案の定、紡がれたディーウィの言葉に、俺は思わずラルから顔を逸らしていた。
「ひとまず、毒を盛った犯人を捜す為になら、一度張ってもいいかもしれないですね、結界を。むしろフィリス様のことはそれぐらいしないと僕達では守り切れないようですし」
「毒? いったい何の話だ」
途端、ラルの気配が凄まじく尖る。対するディーウィは空々しい笑顔のままだ。そして。
「ディーウィ、」
「僕達もさっき知ったばかりなんです。どうやらフィリス様はこの一週間、8回も、毒物や薬物、あるいは異物を食事に仕込まれていたそうですよ」
何を言おうとしているのか悟って、咄嗟に遮ろうと名前を呼んだにもかかわらず、ディーウィは結局最後まで、笑顔のままで言い切ったのだった。
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