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34・自覚

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『君さえその気・・・になれば』
『君が本気・・で拒絶すれば』

 セネグルが告げた言葉が、俺の中でぐるりと渦巻く。
 俺は彼ら二人と会った後、結局、部屋へと引き込んだ。
 侍従や侍女たちが、ちらちらと、ずっとこちらを気遣わしげに窺っているのがわかる。
 わかっていてなお、だけど今の俺は、彼ら彼女らに、何らかの配慮を見せる余裕がない。
 だってわかっている。わかっていたのだ。
 セネグルの言う通り、俺は本当は抗えた。口ではいったい何を言ったって、ロディスを、拒絶しようと思えばできるのだ。

『頼むから。リティ……』

 ロディスが情けなくもあんな声で縋ってきたから。
 そんなもの本当は、理由になんてなりやしない。
 あの声を、言葉を、はねのけることが出来なかった。だからあの男を受け入れた。この状況に甘んじている。
 わかっている。本当は、わかっていた。
 セネグルとギセアが勘違いしたのも当然というものだろう。
 どんな経緯があったって変わらない。
 なんだかんだと理由を付けても、今の状態を受け入れているのが、他でもない、俺自身なのだということぐらい。
 俺にだってわかっているのだ。
 子供の為とはいえ、嫌い合っていたはずのロディスと毎夜、あんな行為を致さなければならない。
 それを、結局、俺は受け入れている。
 それがいったいどうして・・・・なのか。
 子供は望まなければできない。子供を望んだのは俺自身。
 答えは全て、そこにあった。

「でも……そうだとしても」

 全く何も納得できない。
 心に引っかかっていることがある。

『私は、あの方の、』

 幼く、剣のある、しかし可愛らしく高い声が耳に蘇ってくる気がした。
 俺はふるり、頭を振ってそれを散らす。
 いつの間にか部屋の中が、夕陽に赤く染まっていた。
 と、そこへ近づいてくる気配。
 いつの間に帰ってきたのだろうか。
 俺は全く部屋から、どころか、昨日より前の数日間など、寝台からも降ろさせてもらえず、従って出迎えどころか、彼の帰宅が、わざわざ俺へと知らされることなどなかった。
 なにせ彼は帰り着くなり、多分まっすぐに俺の所へ来ている。出迎えも何もありはしない。
 時間は確かに、彼が帰ってきてもまったくおかしくないようなものとなっていることだろう。
 だって部屋はもうすでに赤い。
 躊躇なく、遠慮なく。室内にいる俺のことなど全く考慮していない様子で、扉が無造作に開けられる。
 そこに現れたのは、予想に違わぬ男の姿。この部屋の本来の主。

「リティ……」

 ただいま、の挨拶より先に、俺を見て小さく名を呟いた。
 俺は途端、激しく顔をしかめてしまう。
 きっと嫌悪が顔に出ていたことだろう、だけど男は全く何も動揺した様子を見せない。

「よぉ、ロディス。帰ってきたんだな」

 吐き捨てるようにそう言った俺に、ロディスは微かに頷いた。

「ああ。帰った」

 それは何処までも、いつも通りの声だった。
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