上 下
133 / 206
4・初めての国内視察

4-15・休暇中の暗躍⑧(アーディ視点)

しおりを挟む

「それでは父様。僕はこれで失礼します」

 パタン、閉まる扉の向こうへ変わらない微笑みを向けたままミスティの執務室を出たアーディは少しばかり予想が外れたな、だとか、そんなことを考えていた。
 最後まで険しかった父親の顔を思い出す。
 ミスティは比較的いつもにっこりと微笑んでいて、穏やかな、というか、余裕を持った表情を崩すことなどめったにない。
 にもかかわらず今日はずっと苦々しい顔のままだった。
 それぐらいにアーディの話は全くミスティにとって受け入れがたいことだったのだろう。だけど。

「そうは言っても、やっぱり僕は必要だと思うんだよね」

 ティアリィを思うのなら、アーディがしようとしていることは、抜かさない方がいいだろう、そう思う。可能な限りすべてティアリィの望むままに。そう、考えてしまうのはティアリィがアーディの母親だからというだけが理由ではない。言ってしまえばティアリィが、アーディやミスティよりもずっと、より神に近い存在だからだ。先祖返りと言ってしまえばいいのか。魔力量の多さもある。
 それだけでアーディが、ティアリィをより尊重してしまう理由には充分だった。少なくともアーディにとっては。

「アーディ兄様、どうだった?」

 先程の父親とのやり取りを思い返しながら、ティアリィの執務室へ向かうアーディにとことこと近づいて話しかけてきたのは、そもそも城で見かけることそのものが珍しい妹で。
 ちなみに、何故ティアリィの執務室へ向かっているのかというと、今、アーディがティアリィの執務の代わりを主に行っているのがその場所だからである。
 あくまでティアリィの手伝いなど、まだまだ一時的なものであるしと、別の場所を用意させる手間を省いた結果だった。
 それはともかく、奔放な妹が覗き込むようにして訊ねてきた言葉へと、アーディは肩を竦めることで答えとした。

「どうもこうも……許可できないって」
「えー、何それ。今更じゃん」
「まぁね」

 口を尖らせる妹に同意する。もっとも先程父親に言った通り、許可が下りなかったからと言って、アーディたちの行動が変わる予定はない。
 ただ事前に伝えるか伝えないかは重要だと、そう考えているだけのこと。
 アーディたちのしようとしていることを知って、無謀だと思う者がいるかもしれないが、アーディたちはそうは考えていなかった。
 父親もおそらくは、アーディたちで役不足だとか、そんな風には感じていなかったはずである。
 ただ、子供であるから、心配だから。
 それは親であるからこその気がかりで。そこに信頼していないだとか、出来なさそうだからだとかいう理由は含まれていないだろうと思われた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

処理中です...