112 / 206
3・偽りの学園生活
3-73・嫉妬の対象
しおりを挟む「母様。父様の行動の理由なんて単純なんですよ。どうして母様がそれに思い至らないのか、僕からしたら不思議でなりません。だってあんなの、ただの嫉妬なんですから」
アーディの言葉に、ティアリィは目を丸くして驚いた。
「嫉妬……?」
あれが、ただの嫉妬だと?
あの激しい激情は、つまり嫉妬ゆえのものなのだとアーディが言う。心当たりがまるでなかった。
「どうして、嫉妬なんて……」
それはいったい何に対して。
「わからないんですか? 本当に?」
そう、問いを重ねられても、ティアリィにはわからない。
だって、ミスティが嫉妬するようなことなど何もなかったはずなのだ。
ここ数日を思い返す。いつもと違うことと言えば、コルティやピオラを連れて街へと買い物に出たことぐらい。だが、一緒に出掛けた相手は、自分たちの娘たちだ。子供に嫉妬だなんて。
否、ミスティならそれも決して不自然ではないのだけれど。
「まさか街に買い物に出たから? でも、たまにはコルティにもかまってやらないと……」
眉根を寄せて躊躇いがちに心当たりと言えなくもないことを口に出したティアリィに、アーディは明確に溜め息を吐いた。どう控えめに聞いても呆れている。
「違いますよ。はぁ。まさか本当にわからないなんて」
そんな風に言われても。ならいったい何に嫉妬したというのか。
「ユーフォルプァ王太子殿下。ご一緒だったそうですね」
そこまで言われて、ようやく思い出す。そう言えばユーファ殿下と途中で行き会った。そのまま案内してくれるというので、行動を共にしたのだが。
「まさか。相手は子供だぞ。それにピオラの婚約者候補だ」
嫉妬する対象じゃないだろうと首を傾げるティアリィに、アーディはあきれ果てたとばかりに首を横に振った。
そもそもティアリィの中で、ユーファ殿下のことなぞすっぱりと抜け落ちていて、そう言えば一緒だったなと指摘されなければ思い出さないぐらいだった。
それぐらいにティアリィは、彼に関心を向けていない。否、ピオラの婚約者候補としては見定めなければとは思っているのだが。
「でも、身内ではない、若い男性です。子供と言っても、もう16になるのでしょう? そこまで小さいわけじゃない、父様にとったら充分な脅威ですよ」
自分の娘の婚約者候補が? そんなもの、自分たちの子供みたいなものなのに。
納得しかねると言ったティアリィの様子にアーディは仕方がないとばかりに肩を竦めて。
「身内じゃない、幼すぎないってだけで充分なんですよ。てゆーか、子供以外が母様と一緒にいるってだけで父様は充分に嫉妬するでしょ」
なにせ父様は独占欲の塊みたいなものなんだから。子供にだって嫉妬するのに。
そこまで言われてはティアリィも、そういうものなのかと飲み込むしかなく、納得できないまでも、覚えてはおこうと頷いた。
「そう言うのも含めて、母様はちょっといろいろ考えた方がいいですよ」
困ったように笑うアーディは、本当に自分には過ぎた息子だとしか思えなかった。
17
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる