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2・旅程と提案
2-10・フデュク商会
しおりを挟むミーナの同行を認めたのには他にも理由があった。
ミーナは将来、旅に出たいのだそうだ。今回の同行は危険度も併せてその予行練習にちょうどいい。全くティアリィの目の届かない所で勝手をされるぐらいなら、一緒に行動できる今回を利用した方がいいのではないかとまで言われて、確かにと納得してしまった。
問題はミーナが長期間王宮を開けることに関して、ミスティがどう反応するかなのだが、そちらは何とかするとアーディが請け負った。
多分適当に真実と虚構を混ぜて誤魔化しでもするのだろう。
任せろと言うなら任せてしまうことに決める。
少し、段取りをつけてくると言うので、実際の合流はその更に2日後と決まり、戻ってピオラ達にも報告をした。
ピオラは驚きに目を見開いてはいたものの、すぐに、いいんじゃないかしらなんて言っておっとりと笑った。
アーディと概ね同じ意見らしかった。
どうやらミーナのことを、よくわかっていなかったのはティアリィの方らしい。
あるいはそれは、子供にはいつまでも子供でいてほしいなどという親の願いゆえのものだったのか。
わからない。
だって同じように育てているはずのコルティはまだまだ幼くかわいらしいばかりなのだ。
元々の資質となると、ティアリィ自身とミスティからの影響ということにもなり、なんとも言えない気分で頭を抱えた。いったい誰に似たのか。ティアリィにもミスティにもあのような冒険心などなかったはずなのだが。
ともかくミーナと合流して、その更に翌日にはミーナの先導で、とある商会と合流することになる。
フデュク商会という主にマシェレアで活動しているそこは、各国で行商も行っているらしく、今までもキゾワリ聖国内を、よく行き来していたのだという。
ルティルから伸びる大きな街道を少し横切った辺りで合流した馬車二台分の商団に、ティアリィ達は組み込まれることになった。馬車そのものもティアリィ達の使用しているものと違い、荷台が大きな商会が良く使うもので、馬車の外にも馬に跨った随員が幾人かおり、商団としてもそれなりの大人数となっている。
「よぉ、ミーナ! 久しぶりだな。3ヶ月ほど前に会ったっきりだったっけか」
「だいたいそれぐらいだと思うよ。今回はありがとね。無理言ってごめん、助かったよ」
商団の中でもリーダー格だと思わしき大柄な熊のような男がミーナに気安げに声をかけた。どうやら顔見知りであるらしい。男は次に、ミーナと共に馬車の外まで出迎えに出ていたティアリィを認めると一瞬目を丸くした。
「ああ、これはこれは。このような所でお会いできるとは……」
「ティール・ジルサです」
どうやらティアリィの本来の姿を一目で看過したらしい男を、あえてそう名乗ることで牽制する。
男はわかっているとばかりに目を細め笑みを浮かべた。
「心得ております、ティール様。お会いできて光栄だ」
ティアリィは変装及び認識阻害を解いていない。ミーナが予め伝えていたのだろうかとちら、視線で問うと、ミーナはひょいと肩を竦めた。
「余計なことなんて何も言っていないわ」
ならば何故。
疑問が顔に出たからだろうか、交わしていた握手を解いた男が苦く笑う。
「ご心配なさらずとも、他の者にはわからないと思いますよ。貴方様の魔法は完璧だ。だけど俺の目は少し特別製でね」
自分の目の辺りを自分で指さして示され、なるほどとようやくティアリィも思い至った。観察眼。どんなものも、その目の前では本来の姿を透かし見せるという。商会にはうってつけの能力だろう。ひどく珍しいもので、ティアリィも実物は初めて見た。
「もっとも、こんな目を持っていても、あなた方の国ではほとんど役に立ちやしませんけどね」
聞けば男はナウラティス出身なのだそうだ。だが、我がナウラティスは特性上、偽りの姿をしているものなどが極端に少なく、せっかく希少な目を持っていても、宝の持ち腐れのようなものだったのだとか。
結局は国を出て、マシェレアで一番の大商会だったフデュクに所属するに至ったらしい。
そのような話もしながら、そこから先ファルエスタまでを彼らに同行してもらうことになった。
ティアリィはようやく少しだけ肩の荷を下ろす。
ほら、言った通りだったでしょ? と言わんばかりの得意げなミーナの顔が、ほんの少しだけ憎たらしかった。
全く子供が生意気な。普段からどんな無茶をしでかしているのかと想像してしまって、心配でたまらなくなる。今回、助かったのは本当だったけれど。
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