12 / 206
1・きっかけと要因
1-10・伝えられない予定と、
しおりを挟むティアリィは初め、ちゃんとミスティに許可を取るつもりでいた。仕事の調整もあるし、心配なのはミスティも同じはず。快く、とまでは行かずとも、最終的には送り出してくれるだろうとも思っていたので。
問題はいまだにティアリィがミスティの存在に慣れ切れておらず、時には仕事上必要なやり取りさえぎこちなくなる有様で、必要な話をしっかりじっくりできる自信がないところだった。
その上、ミスティはどうやらティアリィほどには、ピオラのことを心配しているわけでもないらしいことに気付いてしまって。余計に話しづらくなる。まともに話し合えない間にだんだんと出発予定が近くなり、ティアリィはひとまずと、仕事の調整などを優先した。自分が長く不在になっても、大きな問題とならないように。
アーディが言ったように、ティアリィはその気になればどこからでも王宮へ転移して戻って来れる。むしろ一番得意な分野なのだ、出来ないはずがない。だから、最終手段としては、毎日通うという方法もなくはなかったのだが……流石に現実的ではなさすぎるかと断念した。
具体的な仕事の調整は結局ミスティよりよほど話しやすい宰相と相談することにした。彼は学園の後輩でもあり、無理を通しやすい。
案の定、随分と渋い顔をされたが、最大限、調整してみると約束してくれた。
意外にも自ら手伝うと申し出てくれたのはアーディだった。
彼なりに自分の発言がきっかけとなった自覚があったのだろう。年齢もあり、実際に請け負える仕事などそれほど多くもなかったのだが。
「どうせ毎日帰っては来るんでしょ? なら、その時チェックしてくれればいいよ。出来る範囲で進めておくから」
ため息交じりにそう言って、引き継ぎよろしく足しげくティアリィの執務室に通ってくれるようになったので、ティアリィもここぞとばかりに教えられるだけの仕事を教え込んだ。
若く柔軟な頭は吸収力に優れ、見ている限りでは判断ミスもしなさそうだ。我が子ながら末恐ろしいと思わざるを得ない。
ミスティには話せていなくとも、子供達には勿論伝えてある。まだ幼いコルティなどは少しばかり嫌がって駄々を捏ねたのだが、丁寧に心情と状況の説明をし、また、毎日顔を見に帰ってくると約束すると、ようやく不承不承ながらも頷いてくれた。
これは折を見てコルティだけでも連れ出す必要が出てくるかもしれないとちらと思ったが、それはその時になってから考えようとも思い直した。
グローディも、書類仕事はほとんど手伝えないが、視察などの業務なら、いくらか引き受けてくれるという。それは後々、グローディの今後を決定づける出会いのきっかけとなるのだが……そんなことは今からわかるようなことでもなく。
そうしてなんとか、長期間不在にする準備を整えていった。ミスティに伝えないままで。
ミスティはもともと、ティアリィほど子供たちとの触れ合いが多くない。
それでも王族の父親として不足があるほどでもなく、むしろ歴代の皇帝を思い返すと、家族との時間を大切にしている方とさえ言えた。にもかかわらず、子供達からさえ、ティアリィの不在予定が伝わることなく時間が過ぎていって。
何よりぎりぎりまでミスティに話せず、しかし伝えなければと思っていたティアリィに、いや、絶対に伝えないまま出発してやろうとまで決意させたのは、他でもないミスティ自身の不用意な一言だった。
あるいはそれは、この数年、ティアリィ自身がどうしても気にせずにはいられなかったが故のものだったとも言えるだろう。
本当に他愛無い一言で張ったのだけれども、ティアリィの機嫌を損ねるには、充分だったのである。
27
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる