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1・きっかけと要因

1-10・伝えられない予定と、

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 ティアリィは初め、ちゃんとミスティに許可を取るつもりでいた。仕事の調整もあるし、心配なのはミスティも同じはず。快く、とまでは行かずとも、最終的には送り出してくれるだろうとも思っていたので。
 問題はいまだにティアリィがミスティの存在に慣れ切れておらず、時には仕事上必要なやり取りさえぎこちなくなる有様で、必要な話をしっかりじっくりできる自信がないところだった。
 その上、ミスティはどうやらティアリィほどには、ピオラのことを心配しているわけでもないらしいことに気付いてしまって。余計に話しづらくなる。まともに話し合えない間にだんだんと出発予定が近くなり、ティアリィはひとまずと、仕事の調整などを優先した。自分が長く不在になっても、大きな問題とならないように。
 アーディが言ったように、ティアリィはその気になればどこからでも王宮へ転移して戻って来れる。むしろ一番得意な分野なのだ、出来ないはずがない。だから、最終手段としては、毎日通う・・・・という方法もなくはなかったのだが……流石に現実的ではなさすぎるかと断念した。
 具体的な仕事の調整は結局ミスティよりよほど話しやすい宰相と相談することにした。彼は学園の後輩でもあり、無理を通しやすい。
 案の定、随分と渋い顔をされたが、最大限、調整してみると約束してくれた。
 意外にも自ら手伝うと申し出てくれたのはアーディだった。
 彼なりに自分の発言がきっかけとなった自覚があったのだろう。年齢もあり、実際に請け負える仕事などそれほど多くもなかったのだが。

「どうせ毎日帰っては来るんでしょ? なら、その時チェックしてくれればいいよ。出来る範囲で進めておくから」

 ため息交じりにそう言って、引き継ぎよろしく足しげくティアリィの執務室に通ってくれるようになったので、ティアリィもここぞとばかりに教えられるだけの仕事を教え込んだ。
 若く柔軟な頭は吸収力に優れ、見ている限りでは判断ミスもしなさそうだ。我が子ながら末恐ろしいと思わざるを得ない。
 ミスティには話せていなくとも、子供達には勿論伝えてある。まだ幼いコルティなどは少しばかり嫌がって駄々を捏ねたのだが、丁寧に心情と状況の説明をし、また、毎日顔を見に帰ってくると約束すると、ようやく不承不承ながらも頷いてくれた。
 これは折を見てコルティだけでも連れ出す必要が出てくるかもしれないとちらと思ったが、それはその時になってから考えようとも思い直した。
 グローディも、書類仕事はほとんど手伝えないが、視察などの業務なら、いくらか引き受けてくれるという。それは後々、グローディの今後を決定づける出会いのきっかけとなるのだが……そんなことは今からわかるようなことでもなく。
 そうしてなんとか、長期間不在にする準備を整えていった。ミスティに伝えないままで。
 ミスティはもともと、ティアリィほど子供たちとの触れ合いが多くない。
 それでも王族の父親として不足があるほどでもなく、むしろ歴代の皇帝を思い返すと、家族との時間を大切にしている方とさえ言えた。にもかかわらず、子供達からさえ、ティアリィの不在予定が伝わることなく時間が過ぎていって。
 何よりぎりぎりまでミスティに話せず、しかし伝えなければと思っていたティアリィに、いや、絶対に伝えないまま出発してやろうとまで決意させたのは、他でもないミスティ自身の不用意な一言だった。
 あるいはそれは、この数年、ティアリィ自身がどうしても気にせずにはいられなかったが故のものだったとも言えるだろう。
 本当に他愛無い一言で張ったのだけれども、ティアリィの機嫌を損ねるには、充分だったのである。
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