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16・胸騒ぎ
しおりを挟む学生生活は当然ながら卒業とともに終わる。
高等部は三年間で、キューミオ殿下の留学期間もそれに伴って三年。
卒業後はそれぞれ、王宮で執務に当たることとなるだろう。
今までよりも多くなるけれど、授業がなくなる分、休日はしっかり設定されるようになるとも聞いていた。
今はどうしても週に一日だって、しっかり休めるような日はないから。
その後、約半年後に、私とルーミス殿下との婚姻が予定されていた。
もちろん、どれだけキューミオ殿下に詰られたとてそのようなことは一切関係がなく、変更があるとも聞いていない。
ああ、そう言えば。
「キューミオ殿下は……執務だとか、そう言うのはなかったのかしらね……」
当たり前の話だが、私とルーミス殿下とは違って、王宮で執務や教育を受けたりだとかそのようなことがなかったのは把握していた。
おそらくは正しく学生としての生活を謳歌していたことだろう。
流石に長期休みは帰国していたようだけど。私への態度以外に大きな問題が起きるようなこともなかったように思う。否。
「あの女生徒と仲良くしていたようなのは、問題と言えば問題かしら……」
いずれも私には関係のない話だ。
私たち全員の卒業式の後は王宮で夜会の予定があった。
日程としては翌々日。
私とルーミス殿下の卒業祝いと、キューミオ殿下の送別の意味もある、ある意味での卒業記念パーティのようなものだ。
例年なら学園のホールで行われているはずの物で、今年に限っては私や殿下方がいるので開催場所は王宮となるのだが、卒業生は全員招待されていた。
ルーミス殿下からはいつも通り、当日着用するようにと、ドレスが送られてきていて、流石、これまで婚約者としての責務を正しく勤めてきてくれたルーミス殿下らしいと何となく心が温かくなった。
「ルーミス殿下は、変わらなかったわね」
私への態度に変わる所などなく、会話もなければ笑いかけられもしない。
きっと好かれてはいないのだろう、だけど。
「嫌われてもいなかった、はず……」
『不快だ』
いつぞや耳にした言葉が脳裏に蘇る。
キューミオ殿下から詰られるとほとんど決まって、同じようなことを言っていた。
ただ、それが私に対してなのかどうかははっきり、明言されたことはない。
「私のことじゃ、なければいい」
それはいっそ願いかもしれない。
少なくともこうして、ドレスが送られているということは、今後も、婚約者として扱ってくれるつもりがあるという証。
当日は迎えにも来て下さる予定となっていて、両親や、王宮に赴いた際に顔を合わせる教育係や官吏などの誰からも、何か、おかしなことが起きているというようなことを言われることは一度もなかった。
つまり、ルーミス殿下の態度などに変化は何もないということ。
それでも、嫌われていないだとか、不快だと言ったのは私のことじゃないだとか。それが自分の願望でしかないことは、私自身にもよくわかっていた。
そんな風にして迎えた卒業式は何事もなく、ただ平穏に過ぎていく。
私はこれから行われる夜会も、同じよう、何事もなければいい。そんなことだけを願っていた。
なんとなく、そうはならないかもしれない、そんな胸騒ぎを拭いきれないままに。
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