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8・共に生きる為に
しおりを挟むそのご令嬢が、中途半端な時期に編入してきた、元平民で、最近子爵家の養女になったアリアという名の存在であることを、私はやはり、私の周囲でいろいろなことを話す、他のご令嬢たちの会話から知った。
アリア。
そうか、アリアというのか。
私はその名を噛みしめ、自分でも理解できない衝動に突き動かされるままに、数日のうちにはさっそくアリアに会いに行くことにした。
澄んだ橙色の瞳。ミオシディアと同じ、眼差しには私への祝福が含まれていない。
だが、王宮の女中やごく一部の騎士様や司祭様と同じように、私の顔に見惚れていた、私へと祝福を与えてくれる存在。
わからなかった。
彼女はどちらだろうか。
ミオシディアのように、遠ざけた方がいいのか、それとも。
ひとまず、見極める為にも傍にいさせようと考え、
「おい、お前、喜べ。私の側付きにしてやろう」
と申し付けてみたのだが、アリアは喜ばず、剰え、嫌そうな顔をして見せて、断りさえして、私はそのうちになるほど、彼女は私へと祝福を与え、また、私は彼女にどうやら祝福を与えられるようであると理解した。
であるならばきっと、傍においても大丈夫なのだろうとも同時に思う。
ミオシディアとは違う、私と祝福を与え合えるアリア。
その上、どうやら彼女は私以外の者からも祝福を与えられているようなのである。
私はなぜだか安心した。アリアはきっと私と同じだ。ならばこそ私といつまでも共にいられることだろう。
アリアに構い出した私に、周囲から与えられる祝福は加速度を増した。
「ルピル殿下ったら。最近はアリアさんにご執心ですのね」
名前も知らないご令嬢が、祝福と共に私に告げる。
私は微笑んだ。
「ああ。アリアはかわいらしいだろう?」
口に出して初めて気付いた、それはもしかすると初めて私が口にした、私自身の感情だったのではないかということに。
誰かがそう告げたからではない。誰かから聞いた言葉でもない。私はアリアを可愛らしいと思っている。
そんな私を見て、ご令嬢はどう思ったのか笑みを深くして。
「それほどにお気に入りでしたら、ご結婚はアリアさんとなさるのかしら? 殿下は以前から婚約者であられるミオシディア様のことを嫌ってらっしゃいましたものね。おかわいそうなミオシディア様。殿下からいずれ婚約破棄されるだなんて」
そんな言葉を続けてみせた。
結婚? アリアと? ミオシディアとの婚約を破棄して?
そのような考えなど全く持っていなかった私はなるほどと納得する。
美しいミオシディア。私とは離れた方がいいミオシディア。だが、アリアは違う。私と同じアリア。祝福を与え合える唯一の存在。ああ、そうだ、私が祝福を与えることが出来るのはアリアにだけなのだ。私はいつも祝福を与えられるばかりで。
そのご令嬢とその後、何かを話したのか、何も話さなかったのか。記憶は全部曖昧で、よく覚えていないのだけれど、ただ、ご令嬢の言葉があったから、私はその後、アリアと共に生きることを、考え始めたのだとは思う。
これから、共に。父上から祝福を与えて頂く。そして私もアリアへと、祝福を与えるのだ。
そんな想像は、なんだかひどく悍ましく。なるほど、これもまた祝福なのだと私は思った。
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