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4・とある騎士様
しおりを挟む私が祝福を受けられる頻度は母よりは低く、しかしほとんど毎日で、父上から直接祝福を賜れるのは月に一度あるかないか。
父は大変に慈悲深く、出来るだけ多くの者に祝福を与えられるようにということなのだろう、側妃と呼ばれる者は何十人と存在し、その中でも月に一度、直接祝福を注いで頂けたり、母のように、ほぼ二年おきに父上の一部とも言うべき尊い御子を授けられたりすることは、非常に栄誉なことであり、寵愛深いしるしに他ならないことだと教えられた。
祝福をたくさん受け取ることは神に近づく行為であり、皆それを目指して自分を磨いていると。父上に選んで頂くことが出来た私や母は、その事実だけでも尊く、そんな私や母に仕えられることは、祝福の残滓を受け取れることとなり、この上ない喜びなのだと女中はいい、私は彼女らに非常に丁重に扱われた。
つまり女中たちは私に祝福の片鱗さえ与えてはくれなかったのである。逆に私こそが与えねばならなかったのかもしれないが、それを告げると恐れ多いということで、何もせずともよいのだと指示された。
代わりのように、日々私に祝福を与えて下さるのは騎士様と司祭様である。多くは逞しく、粗野な雰囲気のある男性ばかりで、時折女性も混じっていたが、それは大変に稀だった。
そんな騎士様たちの中で、ある、お一人の騎士様が混じられるようになったのは、さて私が何歳の時だったのだろうか。
正確には覚えていないが、学園に入学する前であったことは確かである。
学園は我が国で貴族や王族が16になると通う場所で、少なくともそれよりは低い年齢だったということだ。もしかしたら12や13だったかもしれないが、年齢になど大きな意味はないと思われる。
その時にはすでに私は父上や騎士様、司祭様から祝福を注いで頂けるようになっていて、私は日々、彼らから祝福を賜っていた。
祝福を与えて頂くと、いつも決まって吐き気がした。
気持ち悪くて堪らず、体は強張った。私は祝福とはつまりそういうものであると理解していたので、私はそういった不快を喜んで受け入れる。もっと更にと指示されるままに請うことさえ日常だった。
その騎士様が初めて私に祝福を下さることとなった日も、私はいつも通り騎士様たちにたくさんの祝福を注いで頂いていたはずだ。
痛みと苦しみで朦朧とする意識の端で感じただけではあったのだが、その騎士様はどうやら他の騎士様と少しばかり様子が違っていたようだった。
「あっ、あっ、ぁあっ、ぁうぅっ……」
いつものように床に這いつくばって呻き、痛みと共に祝福を注いで頂く私を見て、その騎士様は非常に驚いておられたように覚えている。
「なんっ、だ、これは……っ! おいっ! どうなってるんだっ!」
激昂した声が聞こえた。私や母に対するものではないという部分だけが、なんだけ珍しいなと私は思いながら、騎士様に揺さぶられていた。
ぼやけた視界に映るのは、私や騎士様の体液に汚れた床だけだった。
「ああ? お前、これがはじめてなのか? どうなってるも何も……仕事だよ、仕事。こうしてこいつらに祝福を注いでやるんだ。事前に聞いてるんじゃねぇのかよ」
騎士様や司祭様はいつもだいたい複数人いて、私を揺さぶっておられる方以外は、待機しておられたり、眺めておられたり、私の肌を撫でたり叩いたりだとかいう別の形で私へと祝福をお与え下さっていたりした。
そのように待機しておられたお一人に向かって、件の騎士様は声を荒げておられるようなのである。
話されていらっしゃる内容は、私にも聞こえていたが、意味はよくわからなかった。
「聞いているっ! 聞いているが、だがこれはっ……こんなにひどいだなんて……予想以上だっ、あの子なんてまだ子供じゃないかっ……!」
「んなの関係ねぇんだよ、俺らはただ、聖王サマのおっしゃるがままに、あいつらに魔力を注いでやりゃいいんだよ。どう扱ったってかまやしねぇ。あんまり殴りすぎたりはすんなって言われてるけどな。自分が触る時にキレイな方がいいからってよ。後は好きにすりゃあいい、魔力さえ注げばいいらしいからなぁ、その為に俺らは集められてんだからよぉ。ははっ。キレイどころと日がな一日ヤり放題だ。最高の仕事だぜ」
幾度か私に祝福を注いでくださったことがある騎士様のお一人なのだろう騎士様が、ガハガハと大変楽しそうに笑いながら何かお話をされていた。
声を荒げていた騎士様が言葉に詰まっている。それほど躊躇うような何かがあるのだろうか。わからない。
お話しはまだ続いていた。私は揺さぶられ、あられもない声を上げていて。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、あっ! あっ!」
「うっ……くぅっ……出る出るっ! おら、祝福だ、受け取れ、王子様よぉっ!」
「ぁああっ!」
ガンガンと腹が破れそうなほど突き上げられたかと思うと、腹の奥に生温かく悍ましい祝福が注がれた。
「ぁっ、ぁっ、ぁあぁぁ……」
じんわりと広がっていく熱が気持ち悪くて堪らず、今日もまたたくさんの祝福を注いで頂けたと実感する。もっとたくさん、たくさん受けなければとぼやけた意識の中で思った。
「んだよ、いやならやめりゃいいだろ。強制はされてねぇはずだぞ。お前の代わりなんざいくらでもいるしなぁ。お前がしないなら俺らがするだけだ。お? 終わったか? 次は俺だな。そこ変われ」
「待てっ!」
今まで私を苛んできた騎士様の逞しい雄の象徴がずるりと抜かれて、支えを失った私はべしゃりと床に崩れ落ちた。
そんな私にお話をしておられた騎士様が近づいてこられる。次はこの騎士様が祝福をお与え下さるらしい。と、思ったが、しかし。もう一人の方が、それを止められて。
私は床に頽れたまま、そんな騎士様たちのやり取りを眺めていた。
「いや、俺がする。……やり方は何でもいいんだろう?」
「なんだ、やる気になったのかよ。好きにすりゃあいい。お前があのガキの相手をするってぇんなら、俺はあっちに行ってくるぜ。あっちはとくに念入りにって言われてるからなぁ。ガキは適当でいいらしいし、どのみちそろそろ終わりだしな。ああ、でも最低一回は注げよ? ノルマだ、ノルマ。聖王サマ曰く、今から魔力を溜めさせてるんだとよ」
全く、聖王サマのご高尚なお考えなんざ、俺らにはわかんねぇけどよ!
がはがはおかしそうに笑いながら、どうやらその騎士様は母の所へ向かうらしかった。
結局、私の元へと歩み寄ってきたのは、その日、初めて出会った騎士様。
その騎士様は他の騎士様と違い、随分長く私に触れるのを躊躇しておられたようだった。
だが、やがて何かを振り切るかのようにして結局は私に触れて。
ぐいと、まったく力の入らない体を抱え上げられる。
「ぁっ……」
私はそんな些細な刺激にもびくりと肩を揺らし、体を強張らせた。
だらだらと足の間から、注いで頂いた祝福と腹の中が傷ついたことによって流れたのだろう血が零れ落ちていく感触がする。
私はひとまず、傷についてだけは治癒魔術を自分で使った。いつものことである。
騎士様はなんだかやけに丁寧な手つきで私に触れて。
私はその感触に眉根を寄せた。私が賜らなければならないのは祝福であり、そんなに壊れ物でも扱うかのような扱いをされては、頂く祝福が薄れてしまうように感じられたからだった。
しかしその後も騎士様は終始、労わるかのような手つきで私に触れ、
「……すまねぇっ」
何故かそんな風に謝りながら、しかし最後には結局私の腹の中へと、逞しく育った騎士様自身を沈めて下さったのだった。
「ぁあっ……」
私は違和感の中で呻く。
その騎士様がお与え下さった祝福は、いつもよりずっと、なんだか祝福たり得ないようなものだった。
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