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第1章
1-114・告白。さきへ君と㉒(ルスフォル視点)
しおりを挟む隣国リセデオからティーシャの養父であるリモヌツ公爵がこの王宮に着いたのは、ラーヴィ様と話したその翌日のことだった。
「へぇ、君がティーシャの……」
リモヌツ公爵はリセデオの国王と同じ馬車に乗っていて、つまり国賓であったので、迎えに出た俺の前、馬車から降りてこちらを一目見るなり、潜めているようで全く潜まっていない声で、目を細めてそう呟いたリモヌツ公爵は正直、礼儀に適った態度ではなかったのだが、元より国力差もあり、こちらが強く出れるような立場にはなく、本来なら俺は国王で彼はあくまでも隣国の一公爵に過ぎないにもかかわらず、それだけではない理由で、俺は公爵を咎められなかった。
そも初対面、挨拶を交わしたりなどする前にそれである。
何よりおそらくその呟きは、国王だとか公爵だとかいう以前にティーシャの養父として出たものなのだろうとも思え、この公爵がティーシャの事情を全て理解してティーシャを引き取っていた場合、俺に思う所があるのは、当たり前のことだろう、そうも考えたが故、俺は敢えてその呟きに反応を見せられるなかったのだった。
こちらの担当の者が、ピクともの言いたげな様子を見せたが、ちらとそちらに視線を流すことで、何も告げるなと制しておく。
だが、溜め息と共に気まずげに口を挟んだのはこちらではなく。
「はぁ……リリ、お前は何をしてるんだ、まったく……すまないな、ルスフォル陛下。礼を失した態度で申し訳ない。せっかく迎えに出てきてくれたというのに」
何故か公爵をエスコートしていた、リセデオの国王らしき人物の方だった。
二人とも大変に若々しく、そして妙に親し気で。公爵、というぐらいなので、親戚なのだろうとあたりをつける。だからこその親しさか。しかし。
とは言えいずれにせよ、何処をどう切り取っても、このような他国へ赴いてまで見せるやり取りとは思えなかったのだが。
「何をって……グトくんこそ何を言ってるの? 僕はただ、」
「リリ!」
頬を膨らませる、やはりどう見ても自国の王へ対する態度でさえない公爵にリセデオ国王が幼い子供を叱るように声を荒げた。
「いや、重ね重ねすまない、こいつも普段はこうではないんだが……」
次いで、本来なら頭を下げること自体良しとしないはずの一国の王であるにもかかわらず、申し訳なさそうにこちらへと詫びられると、あっけに取られていた俺は、ぎこちなく微笑んで、
「い、いえ、お気になさらず。ご無事の到着、安心いたしました」
そう、返すより他になかった。
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