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第1章
1-105・告白。さきへ君と⑬(ルスフォル視点)
しおりを挟むラーヴィ様の様子は静かだ。
嘘を言ったりだとかそういった雰囲気は微塵もない。否、初めからそんなもの何処にもなかった。
ただ、俺はそれが嘘や勘違いであればいいのにと、そんな風に思い始めている。
「……え?」
そもそも、それはいったいどういう意味なのだろうか。
ティーシャが俺を受け入れていない?
ティーシャの心が、俺にないことなどわかっている。
数少ないティーシャとの触れ合い、夜ばかりのそれでもティーシャの様子は、俺に気持ちがあるようにはまったく見えなかった。にもかかわらず、
『陛下、どうかお情けを』
そうして伸ばされる手、引き寄せられる体。
戸惑う俺を誘いこむのはいつだってティーシャの方で。それでも。
「受け入れられて、いない?」
阿呆のようにおうむ返しに呟いた俺に、ラーヴィ様がこくりと頷く。
「そうだよ。君とティーシャが毎夜、閨を共にしていることはわかっている。ティーシャの方からねだっていることもね。君の躊躇いに構わず手を伸ばしているのはティーシャの方だろう? 君も君でそれに溺れてしまっているようではあるけれども、僕らは本当の所、全てが君の本意というわけではないだろうと思っている。なのに、あの子の方が君を受け入れていないだなんて、君には意味が解らない話だろう。だけど本当のことなんだ。ただあの子は君が好きなだけなんだ。いいや、違うな、以前の君を、愛している。今も」
ラーヴィ様は丁寧に、おそらくはティーシャの内面だろうことを俺に説いた。
ティーシャが、俺を愛している? 否、以前の、俺を。
記憶を、失う前の、俺を。今も。
では、今の俺は。
「君も気付いたみたいだね。ティーシャが愛しているのは以前の君であって、今の君ではない。だけど君は君だ。以前の君も、今の君も、君であることは間違いないんだ。ティーシャもそれはわかっている。わかっていても、多分あれは心が追いついていないだけなんだろう。だから君を求めずにはいられないのに、同時に受け入れることも出来ていない。それがあの子にはとても負担になっているみたいでね。もっとも、様子を見ている限り、君と時間を取ろうとしていないのはあの子の方のようだから、それを君に告げても仕方がないことではあるんだけれども」
ラーヴィ様の言葉に、おかしな所など何もなかった。
心当たりがあることばかり。
否、あの少年がティーシャであるのなら。むしろ納得できるほど。俺の中で、わだかまっていたことの答えが見え始めたような気もしていた。
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