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第1章
1-97・告白。さきへ君と⑤(ルスフォル視点)
しおりを挟む休憩から戻って、減ったとはいえ相変わらず多い仕事の山に遠い目になりながら目を通していると、ノックと共に訪ねてきたのは、あのナウラティスからの賓客のお一人、ラーヴィ様だった。
「やぁ、ルスフォル陛下。少し時間、いいかな?」
非常に気安い口調でそんな風に告げられ、俺はちらと部屋に控える文官にお伺いを立てた。
その文官は俺の仕事の補佐をしてくれている何人かの者たちのうちの一人で、必ずではないが、部屋に一人は控えていることが多かった。
俺は概ね彼らの指示に沿って仕事をしているのだ。
過去に散々逃げようとしたことがあることから考えても、半ば見張りのようなものなのだろうと解釈している。
文官は微かに頷いたので、ラーヴィ様の申し出を受けて構わないのだと判断する。
「ええ、構いませんよ。あまり長い時間は難しいですが……」
言いながら席を立ち、自らもそちらへ向かいながら、応接スペースへと促した。
「そうだね。あまり長々と拘束するつもりはないから安心してくれ」
にこと微笑みながら、向かい合わせに腰掛ける。
それにしても本当に気安い態度で、今までこんな風に俺に接してくれる人なんかいなかったから、なんだか妙に新鮮だった
すかさず侍従がお茶を用意する。
文官は処理済みの仕事を抱えて部屋を出ていった。つまり多分、あの文官が帰ってくるまでがラーヴィ様と対峙できる時間ということになるのだろう。
それぞれ、カチャと鳴っているのだか鳴っていないのだかわからないような微かな音でカップに口を付けながら、俺はなんとなく、目の前に座るラーヴィ様を眺めていた。
この国、ニアディスレは小国だ。地図を見てもわかる、周囲から埋もれてしまいそうな国。
その上、聞く所によると、俺の両親と兄だという前国王、王妃夫妻と前王太子がいた頃は大変に腐敗が進行していたのだとか。貧困にあえぐ民に、それを顧みない貴族たち。国王や王太子をはじめ心ある者がなんとかそれを改善しようとしても、色々と言いがかりを付けられたりして足を引っ張られる。
王家の求心力はあまりに乏しく、この国にそれをどうにかできる者もおらず。そのままでは早晩、国は立ち行かなくなっていたことだろうと俺に教えてくれたのは亡くなった前王妃だった。
それに終止符が打たれたのはついに魔の手が前国王夫妻と前王太子にかかってから。
あまりに目に余る状況に、武でもって立ち向かっていったのだと聞いている。
そうして、腐敗の進んでいた貴族たちを、ことごとく粛清していったのだとか。後々に禍根を残さないために徹底的に、親類縁者に至るまで。
俺がこの国へと連れ戻される以前に成されたことだということだった。
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