そしてまた愛と成る

第1章

1-59・転変。および希求①

　伯父の三人目の息子。つまり俺の従兄弟だというもう一人はウィトゥフェルと名乗った。ヴィーフェと呼んで欲しいと。
　同じく皇弟となるクラシュヴィセ様はラーヴィと呼んで欲しいと言ってきたのだが、二人共のことをまさか呼び捨てには出来ず、愛称に敬称をつけて呼ぶこととなった。
　なお、正しく敬称をつけるなら二人とも殿下となるのだが、

『君も同じ殿下・・でしょ』

　と却下され、ヴィーフェ様とラーヴィ様とすることで許してもらった次第である。
　これらのやり取りは全てラーヴィ様と行い、ヴィーフェ様は基本的に口を開かなかった。
　ラーヴィ様曰く、ヴィーフェ様は元々無口であるらしい。表情が乏しいのも生まれつきなので気にしないようにとのこと。反面、ラーヴィ様は大変に社交的で、にもかかわらず、いまだ独り身なのだそうだ。

『忘れられない人がいてね』

　にこ、微笑みながら告げるその目に例の慕わしさがうかがえて、ああ、よもやこの人は実兄の伴侶に……だがきっと諦めてもいるのだろう。気の毒にと思うほどだった。敵わない恋ほど苦しい物はない。なのにこの様子ではおそらくそれでも傍を離れられないのかもしれない。
　そんなラーヴィ様をヴィーフェ様が呆れたように見ていたのが印象に残っている。
　表情がほとんど変わらないなりにヴィーフェ様も、別に無感情というわけではないようだったので。
　彼ら二人は早速とばかり、この王宮の現状を、連れてきた者たちに調べ直させたようだった。

『僕ら二人は実は魔術師塔所属でね。文官じゃないんだ。ただ、教育は受けてきてるし、たまに王宮の執務を手伝ったりもしてる。陛下夫妻が寝室からお出になられない時とかに、特にね。だからまぁ、わからないわけじゃないと思うよ。あと、連れてきてる子たちは正しく文官だから。そっちだけでも期待してて』

　とのこと、正しく畑違いではあるらしかったのだが、書類を見る仕草なども手慣れていて、何より周囲へ出す指示の正確さと、そうすることの迷いのなさに、王族特有の傲慢さと言えばいいのか、カリスマのようなものが見え隠れしているように思えた。
　なお、さらりと陛下ご夫妻の仲の良さがうかがえる発言があったのだが聞かなかったことにしておいた。突っ込んでもいいことなどきっと何もない。
　まさに王族としてこれまで長く過ごしてきたのだろう人達。
　実践慣れしているとでも言えばいいのか。俺のようなたった八年の付け焼刃の知識などとは違う。おそらくは生まれた時から、彼らはそんな立場にあったはずだ。
　伯父の言葉を思い出す。
　仕込んである。そして、必要なのはこっち・・・。
　この王宮の中で今一番に足りていないもの。つまり、指導者たる資質が、この二人にはあるということなのだろう。