そしてまた愛と成る

愛早さくら

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第1章

1-55・未明。だから次へ⑬

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「あまり気負う必要はございませんわ、ティーシャ様。あれでは結局丸投げしてきただけではございませんの。自分たちではどうにもできないからって……あのような者、都合よく使う以外に価値などございません」

 憤っているらしい侍女に、俺はしんなりと眉尻を下げる。

「だが、彼だって疲れている」

 それは間違いがない。
 あの後、更に少しばかり宰相と話したのだが、なんと宰相は元々文官ですらなかったらしい。魔術士団に所属していた魔術士であったのだとか。
 ただ、侯爵とは昔馴染みで、お互いに信頼できる関係性だった。

「若気の至りというにはお恥ずかしい話ですが、当時のこの国はあまり状況が良くなくて……ああ、今とは違う意味でです。一部の貴族の間で、反吐が出るような吐き気を催す腐敗が進んでいた。王族の方には清廉な方が多かったのですが、逆にその所為で利用されているような有り様で。義憤に駆られたんですよ。我々がよくしなければ、と。同志を募って、目に余るものから徐々に力を削いでいって……だが、それに焦ったのでしょう、奴らは暴走して、ついにはっ……」

 そうして言葉を詰まらせていた。
 つまりは国王、王妃夫妻や王太子を害されてしまったのだと。

『わ、我々の理想を理解しようともしないこんな国っ! いっそ滅んでしまえばいいのだっ!』

 早急に捕らえた不穏な者の一人が叫んだ言葉なのだそうだ。
 それが今も耳について離れないのだと宰相は呟いた。そして、だからこそ。

「あんな者どもの思い通りになってたまるものかと我々は躍起になった。王族を立て、守り、今度こそ害されないようにと。だが、彼らの影響は末端にまで及んでいて、疑わしい者を遠ざけていっているうちに、そうでないものまでもが離れていってしまいました」

 そうして慢性的な人員不足へと陥っていったのだそうだ。

「私は元々、それほど優秀なわけではありません。多少魔法魔術は人よりできますが、その程度。10年前、まだ今のお姿ではなかった貴方にさえ劣ることでしょう。ですが、信頼に足る、その一念で宰相にまで押し上げられました。力ない者が分不相応に上に立った。結果はご覧のとおりです」

 そう言って肩を竦める宰相は、俺と話すことで気が抜けたのか、もう疲弊を隠さなくなっていた。
 見るからに疲れ切った様子は、慣れない宰相職を、それでも彼なりに長年続けてきた所為もあったのだろう。

「私ではどうにもできない。わかっているんです。元々一時的にこの任に就いたつもりでした。探し出した陛下に懇願して、戻ってきてもらい、一度出奔していたとはいえ、陛下は王族としての教育を受けてきておられた、だからそんな陛下を中心として、立て直しを図っている所でした。ですが、一度出奔なさったのは事実。何より陛下は年若く、王宮に勤める者の中には、陛下に思う所のある者も多くありました。そんな中で、陛下は懸命に頑張っておられたかと思います。偏におそらくは全て、貴方とご子息をお守りする為に。あの方は貴方だけは手放せない。そうおっしゃっていらっしゃった。ですのに、あのようなことになってしまって……」

 ルスフォルが記憶を失くした。
 それは本当に突然、何の前触れもないことだった。
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