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第1章
1-29・以来。しかし未だ⑮
しおりを挟む痛くて苦しい。気持ちよさなんてどこにもない。
10年前は違った。それは当たり前のことなのだろうけれども。
ルスフォルが俺に初めて触れてきたのは俺が12歳、ルスフォルが16歳の時。
その時のルスフォルはおそらくは家出をする前に王宮でしっかりと最低限以上の閨教育も受けていて、少なくとも知識があった。
それは、平民として育って、ごくごく一般的なことを初等学校で習っただけだった俺よりもよほど正確なものだったことだろう。
加えて当時の俺たちの立場は冒険者だ。いいことも悪いことも教えてくれる大人は周囲に事欠かず、時折、誰かに聞いただとかいうこともあったから、助言には困らなかったことだろうと思う。
好きな相手と体を交わすにはどうすればいいのかだとかいうことを、16歳のルスフォルはちゃんと知っていたのだ。
だから俺はルーシーとの触れ合いで、痛いだなんて思ったことはなかった。
いつも気持ちよくて堪らなくて。頭がぼんやりしている間に、もっと更に気持ちいいことをされるばかり。
普段誰かに触られたりしない場所を触られて、剰えそんな狭いばかりの場所を解して、大きくて硬いルスフォル自身を受け入れる。
そしてたくさんたくさん、お腹の中をかき回された。
そんな全部がただただ気持ちよく、俺はルスフォルとの触れ合いが好きだった。
だけど。
今もきっと、同じことをしているはずなんだ。なのにちっとも気持ちよくないし、痛いばかり。俺は全部ルスフォルに任せるばかりだったからどうすればいいのかわからないし、今のルスフォルは、どう考えても16歳だったルスフォルよりも知識が足りていないようにしか思えなかった。
それでどうしてひどくならずに済むというのだろう。
痛くて、苦しくて。だけど俺のお腹の中は、ルスフォルの魔力で満ちた。
それだけは10年前と同じで、俺はそうしてお腹の中、たくさん注がれたルスフォルの魔力が、どうしてだろう、今もやっぱり愛しく思っている。
大切で、得難く、抱え込んでおきたい。
きっといつかちゃんと子供にしてあげたい。
そんな風に思ってしまうのが、不思議で仕方なかった。
それはつまり、義父の指摘通り、俺の心がルスフォルにあるままだからなのだろう。
それはそれとして、それから俺は、王妃としての公務、政務の傍ら、可能な限り王太子との時間を持つように心がけた。
ルスフォルとはもういい、ほとんど毎日夜に通ってくるのだから、それで充分だとしか思えず、苦痛なばかりの時間が毎晩続いているのだが、時折少しばかり会話を交わしたりすることもあり、徐々に近づけていっているのではないかと思う。
だから俺が意識しなければならないのは王太子との時間の方だと、そう考えたのである。
とは言っても王太子の態度はすこぶる悪く、無視されるのなんて当たり前、差し出した手は振り払われるし、俺が何を言っても言わなくても、苦い顔を崩さない。
まるで懐かない猫のようだった。でも。
近くにいる。顔が見れる。言葉が交わせる。
俺はそれだけで嬉しかった。
だってずっと、この10年間。ひと目見ることさえできなかったのだ。
それを思えば、どれだけ邪険にされたって、今の方がずっといい。
勿論、俺は王太子の良くない態度は逐一注意したし、無下にされて胸が痛まなかったわけではない。
でも。
例えば俺の手を振り払ったりした時、王太子はほとんど必ず、一瞬、自分が、なんだか物凄くひどいことをしてしまったと言わんばかりの、後悔がよぎっているかのような顔を見せるのだ。
そんな様子を目にするだけで、この子はきっと、人に対して、こんな風、よくない態度を取るのが、本当は得意ではないのだろうな、そう感じられた。
きっと真っ直ぐに育っている。
それがわかるだけで、世界の全てに感謝したい気持ちになった。
俺があまりに執拗に王太子に顔を見せるせいか、懐かない猫のような態度が少しずつ、控えめになっていっているようにも思えて。俺は焦らずにいよう、そう心の中で唱えながら、10年ぶりの我が子との触れ合いを止めようなんて思わず、可能な限り続けていった。
俺に対する王太子の態度は、それでもやっぱり反抗的なままだったのだけれど。きっといつかは。そう思えたのである。
そうして三ヶ月。
俺はようやくルスフォルとの婚姻式を向かえたのだった。
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