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第1章
1-14・発端。つまり理由⑭
しおりを挟むニアディスレへと戻ったルスフォルはすぐに国王となった。
17歳。早すぎる戴冠に、周囲はともかくルスフォル本人は全く着いていけず、受け入れられず。その上、当時の俺は平民で、ルスフォルの妃となることさえできなかったのである。
俺は正式に婚姻を結ぶどころか、側妃にさえなれず、愛妾として王宮の一角に留め置かれた。
もともと俺達はお互いに家出をしてきていて、戸籍などを正しくは示せず、教会で誓い合っただけの、伴侶というにはあまりに曖昧な関係で。それでもあのままニアディスレに渡らなければ、そのうちに新たに戸籍を取得して、正式に夫婦となることも出来たのではないかと思う。
全てはもう、過ぎたこと。
だけどそんな中ルスフォルは俺以外を妻とはしないと頑なに言い張り、俺のいる王宮の片隅まで毎日毎晩通い詰めた。
多分ルスフォルも何かに縋りたかったのかもしれない。
それもあって俺への対応だって、別に悪かったわけではない。決して、蔑ろにされていたというのではなくて、かと言って尊重されていたわけでも大切にされていたわけでもなく、あくまでも扱いは愛妾の域を出なかった。
国王の情けに縋って生きる、閨に侍るしか能のない存在。
面と向かってそんな風に言われたことはなかったけれど、きっとそう思っていた者は多かったのではないかと思う。
そのうちに俺は男の子を産み落とした。
庶子でありながら国王の第一子。その時点でニアディスレの王位を継げる唯一の存在だった。
子供が生まれてからも俺の待遇は変わらず、ただ、ルスフォルからの寵愛だけが俺達を支えていた。
勿論、子供は何を言っても王子ではあるので、乳母がつけられて、俺よりよほど丁重に扱われていたと思う。
その後の二年間、俺がそのままべったりと子供と共にあれたのは、俺が王宮で何の責も政務も担っていなかったからなのだろう。
なにせ愛妾なのだ。俺のしなければいけないことは、ただルスフォルを慰めることだけ。
子供と共にあれたのも、ルスフォルがそう望んでいたからというのもきっと大きい。
王宮の片隅で子供と二人、日がな一日ルスフォルを待って過ごして、夜にルスフォルが訪れると、まるでままごとのように家族として接した。
俺にとってのルスフォルは国王なんかではなく、俺の愛した冒険者のまま。場所がニアディスレの王宮の片隅に変わっただけ。どこかで違和感を覚えながらも、俺はその状況を甘受して。ただ、ルスフォルからの愛に縋っていた。
それがいかに不安定なものだったのか。
思い知ったのはあの日。子供が生まれて二年経った頃。ルスフォルが前世の記憶を思い出し、代わりに今世のそれを全て忘れてしまってからのことだった。
どうしてそんなことを思い出すのだろう。今更。全ては今更だ。
今はもう遠く。
「……――っ」
口からこぼれ出た。呟いた名は、何?
自分でもわからない。
俺はいったい誰の名を呼んだのだろう。
ルスフォルだろうか。それとも。
わからない。
何も、わからなくなりながら。
俺はただ、今も。ルスフォルを、ひたすらに受け入れ続けていた。
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