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第1章
1-7・発端。つまり理由⑦
しおりを挟む晩餐に先んじて顔を見せたルスフォルは、昼間と変わらず、どこか俺の存在に戸惑ったままだった。
特におかしなことだとは思わない。
俺とルスフォルは言ってしまえば初対面で、いくら政略的な婚姻では、初めて会うのが婚姻式の時だなんて状況が珍しくないとはいえ、彼がそんな貴族的な慣習に染まっているはずもなく。加えて俺の容姿である。戸惑うなという方が無理のある話だったことだろう。
とは言え、そうして理解できるのと、それが為政者の姿として正しいものであるのかはまた別の話。
相変わらず俺の姿を前に逐一固まるルスフォルに俺は小さく苦笑した。
「私の容姿がそれほどに気になりますか?」
見かねて声をかけると、ぎこちなく頷いて。
「ああ、いや、すまない……君には関係のないことなのに」
そんな風に言われてしまうと、それはそれで面白くはない。
だがもちろん、そんな心情は押し殺して、俺は微笑みを崩さない。
晩餐の会場となる広間へと、エスコートを受け、廊下を歩いているさなかだった。
ちらちらとあまりにもルスフォルからの視線が煩かったのだ。
「ですが、彼のお方と陛下との交流は、ごく短時間であったと聞き及んでおりますが」
それほど印象に残るようなものでもなかったのではないかと告げると、ルスフォルは不快を隠さずきゅっと眉根を寄せた。
「確かにそうだが……それこそ、君には関係がないだろう? 君は本当によく把握しているようだ。確かに君が言うように俺と彼が顔を合わせ、言葉を交わしたのはたったの数度。彼はすぐにここを出て行ってしまったから。だけど、そんな風に、たった数度だとしても……いや、それはそれとして彼はいったい今頃どこでどうしているのか。気にならないと言えば嘘になるだろう。特に君を見ているとどうしてもね」
だってあまりにもそっくりなのだから。
呟きながらルスフォルの視線が遠くへと彷徨い出す。
俺の胸はずきずきと痛みを発していた。
何処でどうしているのか。そんなことを気にするというのか。それこそ、ルスフォルにとってきっと、彼なんてほんのちょっとかかわっただけの人物であるのだろうに。
そこはもしかしたらまだ再会できていない王太子の存在が関係しているのかもしれなかった。
なにせ今、話題に出ている人物は、王太子の母親に他ならないのだから。
ふと思う。ルスフォルはいったいこの十年。亡くなった王妃に対して、どのような態度だったのだろうかと。
この分だと、たぶん彼女は苦労しただろうと思った。
そんな彼女に、目の前の男はいったいどう接していたのだろう。まさか今のように、自分の元を早々に去った存在を気にし続けていたとでも言うのだろうか。
否、まさか。
すぐに内心で首を横に振る。
俺があまりに似ているから。きっとそれ以外に理由なんてないはずだ。
そうでなければ、俺はいったい何のために。
それ以降は特に会話もなく、複雑な心境のまま進めた歩みは、しかし程なくして広間へと辿り着くことによって止まることになった。
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