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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)

16・君に捧げる花の色⑥

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 階段を下りた俺は塔からは出ずに、内側から外扉に背を預け、ずるとその場にうずくまる。
 先程のリュディの声が頭に響いていた。

『愛してる!』

 聞いたこともない明るい声。侍女に告げていた愛。
 あんな声も出せるのか、もっとあんな声が聞きたい、思うと同時に胸が痛くて。
 まさかリュディの気持ちがあの侍女にあったなんて。とんだ悲恋だ。
 リュディは間違いなく俺の子供を生んだ。
 ほとんど毎日彼に触れて、あふれるほど魔力を注いでいるのだそれは間違いない。
 あの侍女とリュディが触れ合った気配なんて、今まで一度として感じたことがなかった。
 もし万が一にもたとえ触れ合っていたとしたら。ほんの僅かであっても魔力が混じる。
 今まで俺はそんなこと感じたことがなくて。
 愛してる。
 あんな声で明け透けに告げるぐらいなのだ、触れ合いをことさら慎重に熟しているとは思い難い。
 ならばこそ触れ合わずに、言葉だけ、気持ちだけ交わしているということなのだろうか。
 きっとそうなのだろう。
 全ては俺が、リュディを求めたから。
 だからリュディは本当に愛している相手とは結ばれず、俺の妃としてこんな塔に囚われて。
 目頭が熱い。泣きそうだ。
 でも。
 俺は今泣くわけにはいかなかった。決して。
 何故なら、俺は先ほど聞いたことを、なかったことにしなければならないのだから。
 リュディを本当に思うのならば、きっと彼を自由にした方がいいのだろう。こんな塔から出て、こんな国から自由になって。そうしたらきっとリュディは、あの侍女と結ばれることが出来るのだ。
 少しばかり年が離れているとは思うけれど、そもそも俺とだって年は離れている。
 多少の年齢差なんて、きっと大きな問題にはならないはずだ。
 だから本当に、俺さえリュディを自由に出来たら。
 子供は、残念ながら外に出すわけにはいかないけれど、リュディと侍女だけなら……――と、考えて。でも、すぐに無理だと思い直した。
 出来るわけがない。
 俺がリュディを手放す? 一度手に入れた彼を、今更?
 リュディの泣き顔が脳裏によぎった。
 泣き止まないリュディ。
 俺は本当に泣いていないリュディを見たことがない。
 いつだって目を真っ赤に腫らして。でも、なのにキレイで、かわいくて。

『陛下』

 震える声で呼ばれると天にも昇れそうな気持になった。

「ああ、リュディ……」

 涙は、流せなかった。
 俺はそのまましばらくそのまま気持ちを落ち着けてから。いつもと同じぐらいの時間に、何食わぬ顔で再度、階段を昇って行った。
 いつも通り、リュディを訪ねる。何も聞かなかったふりをして。だけどどうしたって、ずきずきと。どうしようもなく、心が痛かった。
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