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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
8・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について⑥
しおりを挟むしゃくり上げる度に震える細い肩が憐れで、なのに泣き崩れていてもやはり彼は美しい。
真っ赤に腫れた目元が、かわいくて堪らなかった。
どきどきする。
すぐに触れられる位置に彼がいる。
泣いているのがかわいそうだと思うし、泣き止んでほしいと思う。慰めたい、そうも思う。
だけどどう慰めればいいのかわからない。
こんなにもしくしくと泣くばかりの相手に、俺は今まで対峙したことがなかった。
当たり前と言えば当たり前だ。
両親は呆れるぐらいに頑強だし、幼馴染みはふてぶてしいサネラ。それでなくとも王子だか王だかの前で、憐れっぽく泣き濡れる者などいるはずもない。
つまり俺は泣き顔など、まともには彼の物しか見たことがなく、逆に彼の顔は泣き顔しか見たことがなく。
慰める方法が、何も思い浮かばなかった。
何より、もしこれで彼に触れてしまったら。
熱くなる股間。
なぜ俺は泣き顔に、興奮してしまっているのだろう。
罪悪感が疼いているのは確かなのに、自制できる自信もないのだ。
無理に彼に何か、なんてそんなつもりは全くない。だけど触れたい。彼に。でも少しでも触れると、俺は我慢できなくなるかもしれない。それが怖くて、俺は葛藤ゆえに躊躇し、途方に暮れることしかできなかった。
そんな俺を見兼ねたのかじれったかったのか、
「陛下」
顔を伏せたままの侍女から声がかかる。
「あ、ああ」
そちらは見ずに、否、彼の泣き顔から目を逸らせずに小さくぎこちなく返事を返した。すると侍女は、
「どうぞ、抱きしめて差し上げて下さいませ」
などと指示を出してくるのである。
「はぁっ?! あ、いや、でも、あの、その……」
「陛下」
慌てる俺を制するかの如く、ぴしゃりと掛けられた侍女の声に俺は思わず口を閉ざした。
「私共はこれをお渡りだと考えております。対外的にはどうあれ、内情では陛下はリュディ様を妃にと望んで下さったとお伺いいたしておりましたが、それは間違いだったのでしょうか?」
「いやっ! 間違いではないっ! 書類上はすでに彼を俺の妃としてある。彼はもう、俺の正妃だ」
この国の王妃。
内示さえ今の状況では出来はしないのだけれども。
色々な兼ね合いもあり、書類の上だけでもと、彼の立場は可能な限り明確にしてあった。
俺の正妃であるならば、ただ、こちらに滞在している元敵国の第一公子とするよりよほど彼の立ち位置を、盤石に出来るだろうが故に。
「ならば何も問題はございません。聞けば後継者問題も憂慮なさっておられるとか。子供をお作りになるのも早ければ早い方がよろしいでしょう。どうぞ陛下ご自身でもって、リュディ様にお情けをくださいますよう。それが何よりの慰めとなりましょう」
先程から侍女の告げている慰める、それはつまり、体で、ということなのだろうか。
え、いや、俺が慰めるの? いや、でも泣いているし、慰めるのは俺になるのか?
こういう場合は……え、どうなるんだ?
だが、情けをというのなら、あっているはずだ。
情けをかけることが慰めになるのか?
よくわからなくなって混乱してくる。
慰める、と言うと立場としては逆なのではないかとも思うのだが、明確な指摘もはばかられた。
情けをかける、のなら多分間違ってはいないのだし。
そうなると慰めるというよりは、どちらかというと、あやす?
混乱しながらやはりどうすればいいのかわからない俺の背を押したのは、更に続けられた侍女の言葉で。
「陛下。これはリュディ様も含めた私共の相違です。ですので、躊躇なさらずに、さぁ」
彼は何も言わず、ただ泣くばかりだった。
俺はごく、一つ唾を飲みこんで。ゆっくりと腕を広げ、そっと彼を引き寄せ、抱き込んだのだった。
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