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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)

5・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について③

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 リュディをこの国、そしてあの塔へと迎え入れたその日の夜のことだった。

「はぁ?! 夜を共に過ごせって?!」

 そんなことを進言してきたのは、他でもないサネラ。驚く俺に、彼は至極冷静に言葉を返してくる。

「そうです。仮にも妃にと望んだのでしょう? 彼なら貴方も反応するのでは? だったらぜひ試してきてください。無理強いしろとまでは言いませんが、あちらもご自身の立場はわかっておられるはずですから、おそらく拒まれはしないでしょう。彼の連れてきた侍女はむしろ乗り気に見えましたしね。この国の後継者問題が結構深刻なのはあなたもわかっているでしょう」
「後継者って……そんなの、親父とお袋に今から頑張ってもらってもいいじゃねぇか。二人とも別に死んでるわけでもねぇんだし、そこまで深刻でもないだろ」

 あんまりにあんまりな発言に、俺は眉をひそめて反論した。
 確かに今、この国には王族は俺一人。俺には兄弟どころか親戚さえほとんどいない。だけど。
 今日の昼間に目にした、到着した際のリュディの泣き顔を思い出すと、正直な話どう考えても気が進まなかった。
 確かに俺は彼に好意を寄せている。自分の妃にと望んでいる。
 13年。色褪せることのなかった想いは、美しく成長を遂げた彼を見て、思わず硬くなる股間を自覚せざるを得なかったほど。
 だからサネラが言うとおり、反応はするだろうと思われた。
 そもそも今までだって、13年前にたった一度だけ見た、幼い彼を思い出しては、成長した姿を想像し、股間を固くしていたわけで。むしろ俺はその想像以外で、反応出来た試しがなく、当然他の者など、どんな男女であっても相手に出来ず、それを知っていてかつ憂慮していたのは他でもないサネラだった。
 だからこそこんなことを言い出したのだろうことぐらいはわかる。わかるのだけれども。
 だからと言って。
 思い出す。リュディは泣いていた。ほとほとと美しい涙で頬を濡らして。その姿はひどく神秘的で侵しがたく、心奪われるものだった。
 そんな彼の元を、夜に訪れる?
 あり得ないだろう。
 そう思った。
 しかし、サネラは当然引く様子がない。

「貴方に譲位して即、これで自由になったと言い放って国を出られたお二人に今更? そもそもそれでお子様をおつくり下さる方々なら、今頃あなたにはご兄弟がいたはずですが。なにより、便りさえ碌にないんですから、今どこにいるのか、生きているのかさえ分かりませんよ」
「え、マジで誰も把握してねぇのかよ、それ……」
「じゃあ、あんた把握してんですか」
「いや、俺もわかんねぇけどよぉ……」

 そもそも、サネラの言うとおり、俺の両親というのはひどく自由な人達で……捕まえるだけでも一苦労だろうことは容易に想像できることだった。
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