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しおりを挟むラティの、俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
ああ、こうしてラティに身を寄せるのは堪らなく幸せで、子供もいて、何も憂いなんてなくて。
俺は恵まれている、守られている、満たされている。
不足が何もない。
本当は不安に思うことさえも何も。あるわけがないのだ。
だって俺はラティが好きで、ラティも俺を愛してくれていて、そして誰かに、何かに邪魔されたりするようなこともなくラティと婚姻を結んで、身分だとか環境だとかにすら、問題が何もない。
早くに離れることにはなったけれど、俺は両親や兄弟から愛されているし、それを疑ったこともなく。
義理の親子となるラティの両親にも可愛がられていると思うし、勿論、仲もいい。
ラティの弟や妹たちとだって、良好な関係を築いていると言えるだろう。
反面、立場には責任が伴う。
今は大部分を免除されているけれども、熟さなければならない仕事や公務はこれからだんだんと増えていくはずだ。
不安がないと言えば嘘になるけれど、出来ないとは思わなかった。
むしろ俺なら大丈夫だろうと理解している。
いったいどんな幸運なのかとさえ思うほどの、光に満ちた人生。
なのにどうして、なぜなのか。
「なんで俺、こんななんだろ……」
いったいどこに不安になる要素があるというのか。
否、理由はわかっている。
中途半端に思い出した前世。
これまで触れたこともなかった悪意の潜む夢。
満たされた人生を歩んできたルニアにとって、悪意など決して身近なものではなかったのだ。
ひどく恐ろしかったのは理解できる。
よりにもよって、そんな悪意を持っていたのが自分だったのだから、なおさらのことだろう。
初めて感じた悪意に不安になって、それでシェラに依存した。
シェラが自分の見える場所で健やかである。
ただ、それだけで安心した。
悪いことだったとは思わない。……シェラの将来を歪めてしまったこと以外は。
シェラに対して負い目があった。
シェラが、無理やり俺の側にいてくれているだとかそんな風に感じているわけでもない、だけど。
シェラが元々は侍従だとかの今の立場を、望んでいたわけではないこともまた、間違いようもない事実だった。
そうしてシェラの希望だとかを無視して、ただ俺が安心したいが為だけにシェラを俺の目の届く所にいてもらえるようにと、侍従として王宮で召し上げて。
今度はそんな風、シェラの存在で安堵することに惑って遠ざけようとしている。
「俺、我がままで自分勝手だ……でも」
それでも。わかっていても。
「このままでいいとは、思えない……」
弱々しく呟く俺を、ラティは慰めるように抱きしめ続けてくれた。
それはただの甘えに他ならないのに。
甘えてもいい、言葉にせずともそう言わんばかりのラティの腕の中は、ただひたすらに心地よかったのだった。
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