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30-1・もう一つの変化

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 変わったのはラティに対する感情だけではなかった。
 実際にラティと会ってあふれ出しそうになった慕わしさは、つまり結局は恋情なのだろう、そう思う。
 もともと前世やこれまでの記憶から好意を抱いてはいた。
 なにせ推しだ。好きに決まっている。
 だけどそれは言うならば行き過ぎた憧憬に過ぎなかったのかもしれないとも思う。

(だってあんなにまではドキドキしなかったし)

 少なくとも思いの強さが違ったのは確かだろう。
 今となってはつくづく、傍観者になりたいと思ったなんて、信じられないとすら思う。
 今の俺なら、間違ってもそんなことは思わないだろう。
 否、前世のことを考えるとそういう気持ちが全くないとまではいわないけれども、ラティに対する感情が前世の気持ちそんなものよりも強いのは明白で。
 俺が失くしていたのは記憶だけではなく感情も、だったのかもしれないと思う程だった。
 シェラに対しても同じだ。
 ラティと入れ違うようにして戻ったシェラを前にして、俺はなんだかいっそ泣いてしまうのではないかとさえ思った。
 感極まる感情はいったい何だったのだろうか。
 心の底から安堵する。

「シェ、シェラ……よかった……」

 思わず呟いた声は震えていた。

「ルニア様……」

 そんな俺に、シェラは戸惑ったように声をかけながら近づいてきて、そっと控えめに抱きしめてくれる。
 小さい子供を宥めるような触れ方だ。
 シェラの、俺よりも少しだけ低い体温にほっとした。
 ラティに包まれるのとは、また違う安堵。
 縋りつきたくなるのは何故なのだろう。否、違う。

(安心毛布とか、そんなのかな……)

 目が覚めてからこちら、ラティと別れてもなお、別に俺の情緒が安定していないだなんていうわけではなかった。
 勿論、ラティに対しての感情の変化には戸惑ったし、そう言った意味では不安定だった部分もあるだろうけれども、それでも、過度に不安感を抱いていたわけではなかったのだ。
 けれどシェラの顔を見て、いっそ泣いてしまいそうなほどなんだか物凄くほっとしたのは確かで。

(シェラは、ずっと、俺の目の届く所にいないと……)

 何故だか強くそう思った。
 いっそ自分でも怖くなるほどに。
 そして思う。

(なるほど、これは確かに、今までのルニアだと、シェラが常に傍にいないとダメだっただろうな……)

 そんな風に。
 ルニア今までの俺は、なんと言えばいいのか、記憶を思い返すだけでも感じられるほど、ひどく不安定だったのだ。
 間違っても今の俺の安定性などなかった。

(そういう意味でも多分、前世を思い出してよかったんだろうな……)

 そう思ってしまうほど。
 ルニアに何か非があったとは思わない。思わない、けれど。
 未来の、一国の王妃として、周囲に不安を抱かせるには充分だったんじゃないかとは考えられるのだ。
 もしかしたら例の男を唆した誰かも、そう言った部分が気になったのかもしれないとさえ思う程だった。
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