97 / 141
25-2
しおりを挟むそれにしても。
「見合い相手……」
そんな話が出ていたのかと驚く。
シェラは俺やラティと同じ年なので今年19になる。
つまり成人していて、そして俺が知る限り婚約者などもいなかったはずだ。
結婚を意識するのに遅いということもない。ただ。
あの時に感じた、全く知らないわけではないけれども、決して親しくなんてない気配。あれは。
「あれは……、確か、イニエレス伯爵家の次男だったな。いつの間に見合いなんて話になったんだ?」
昨日、僅かな時間しか俺の判別できる範囲にいなかったけれど、その時に感じた魔力から記憶をさらい、相手を特定する。
確証はないが、多分間違っていないことだろう。
シェラは子爵家の者なので、爵位だけ見るなら何も不自然な相手ではない。
跡取りとなる長男ではなく次男である所も、ちょうどいいと言っていいだろう。
確か年齢も、
「二つ上だったか? 学園の在学がかぶっているな。シェラが学園に通い始めたのは高等部からだが、俺達が一年の時の三年か」
とは言え、校内で見かけた記憶もなかった。
ただ、勿論、だからこそ魔力を全く感じたことがないというわけではなかったし、夜会などでも二、三度は目にしたことがあるはずだ。
とは言え、たったそれだけの相手。
「っ……! よくお分かりになりましたね。距離もありましたし、可能な限り早く、あの場からは離れて頂いたのですけれど」
よく、分かった。
そう言われてはたと気付く。
そうだ、なぜ俺は誰なのかの特定が出来たのだろうか。
先程列挙した通り、全く知らない相手というわけではないが、そんなものこの国だけでも何百人といる。
当然、そんな相手の家名や立場などを全て覚えているわけがなかった。
(ましてや全く親しくもない相手だ、なのに、)
一瞬、何かに気付きかけた、俺が覚えた違和感や疑問は、しかし続けられたシェラの言葉にすぐに押し流されてしまう。
「そもそも、ルニア様がいらしていましたので、あの辺り一帯は立ち入れないようになっていたはずなのですが、入り込んできていること自体がよくありませんでしたから」
それもまた間違っていないことだった。
むしろ俺自身、気になっていたことと言っていい。
だからこそ、抱きかけた違和感などよりもそちらの方へと思考が流れていったのだ。
シェラは俺に何も隠すことなく、続けて理由も教えてくれる。
「本人曰く、あの庭の手入れをしている庭師に用があったのだそうです。元々家系も含め、そういった事業に従事している者ではありますので、嘘だとか言うわけではないのでしょう。確認も致しましたが偽りではありませんでした。ただ、とは言え、王宮にまで赴くことは多くなく、昨日は迷ってしまったのだとのこと。あの場に僕がいたのは全くの偶然で、むしろ、早急に対応してもらえて助かったとも言っていましたが……」
言いながら、しかしシェラは苦々しく顔をしかめていた。
34
お気に入りに追加
1,972
あなたにおすすめの小説
呪われ伯爵様との仮初めの婚姻は、どうやら案外楽しいようです。
和島逆
恋愛
「ゆめゆめ勘違いしないように。この婚姻は、あくまで仮初めに過ぎないのだから」
初夜に冷たく告げられた言葉。
没落貴族の私を借金から救ってくれた伯爵様は言う。これはあくまで仮の婚姻であり、一年後の離縁は決定的である、と。
だけど。
それって何だかおかしくない?
私ばかりが得をして、あなたには損しかないじゃない!
恩人相手に恩を返せないのは困りもの。
納得いかない私は、すぐさま伯爵様を直撃することにした。さあさあ、今すぐ理由を説明してもらいましょうか!
そうして明らかになったのは、伯爵家に代々続く『呪い』の存在。
一体呪いとは何なのか?
解呪するためにはどうすればいいのか?
ご恩返しのため、そして何より二人で幸せを掴むため。
ちぐはぐながら、どこか楽しい新生活が始まりました。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
【完結】平民娘に転生した私、聖魔力に目覚めたので学園に行くことになりました
Na20
恋愛
孤児院で暮らすオルガはある出来事により突然魔力が目覚めた。この国では魔力持ちは王都にある学園に通わなければならない。しかし魔力持ちのほとんどは貴族である。そんな場所で平民かつ孤児であるオルガはうまくやっていけるのだろうか。不安を抱きながらも王都へと向かうのだった。
※恋愛要素は薄めです
※ざまぁはおまけ程度
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました
不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話
爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる