94 / 141
24-2
しおりを挟む何があったのだろうか。
よくない予感がした。
かと言って決定的に彼が害されているとも思えない。――……これはただの予感だけれど。
だってあの時も、今と違って物凄く嫌な予感がしたんだ。
だから僕は……――。
(僕、は? あの時っていつだ?)
ごくごく自然に思った自分自身の思考に愕然とする。
改めて考えてみて、だけどやはり思い出せない。否、思い当たることはあった。
(多分、婚姻式の時の夜会……)
何かがあったとしたらそこだろう。
それだけは間違いない、そんな確信があった。
とにかく今は、不安に感じはすれど、そこまで嫌な予感などはしない。
シェラが、俺が何もしなくても気配を察せられる距離にいない。
珍しいことだというのも含め、気にならないわけがなかった。
でも、同時に、嫌な予感がしない以上、多分本当に心配はいらないだろうことも理解できているのだ。
なら余計に今これ以上シェラを気にかけてもどうすることも出来ないだろうことは明らかで。
(嫌な予感がしたなら探すけど、そうでもないし……)
俺はそもそも、シェラを俺の側へと縛り付けたいわけでもない。
いくら侍従で今は一応仕事の時間中だとは言え、ちゃんと主人に許可を取って席を外している以上、咎めるようなことでもなく。
少しだけ考える。
今の時間は多分ちょうど、そろそろラティが午後の休憩を摂るだろうぐらいの時間だった。
このままお茶なり読書なりをこの場所で続けてもいいのだけれども、なんとなく落ち着けるような気がしなくて、部屋に戻ることにする。
どうしてだろうか、ラティの顔が見たいと思った。
今、何故だか無性に、ラティの顔が見たいのだ。
漠然とした焦燥と欲求。
ラティがもし休憩を摂るなら、可能な限り俺の顔を見に来ようとしてくれることだろう。
その際はここにいるよりも、部屋に戻っている方がラティも戻ってきやすいのは間違いがない。
単純に距離の問題なのだけれども、ラティの執務室には俺の私室の方が近いのだ。
とは言え、ラティの執務室は王宮のほぼ中心にあるお義父様の執務室と近しい場所に設えられていて、俺の普段過ごす私室はそこからすると更に奥まった場所にあり、それなりに離れてはいるのだけれども。
そしてこのガゼボはラティの執務室から見るとそんな私室を更に通り過ぎた場所に位置していた。
ならなおさら部屋に戻る方がいい。
(だってその方がラティと会える確率が高いし)
思って知らず小さく頷く。
パタン、音を立てて本を閉じた。
「部屋に戻るよ」
「かしこまりました」
一言告げて立ち上がると、控えていた侍従が心得たというように頷いた。
41
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします
七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。
よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。
お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい
最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。
小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。
当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。
小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。
それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは?
そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。
ゆるっとした世界観です。
身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈…
タイトルもしかしたら途中で変更するかも
イラストは紺田様に有償で依頼しました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる