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しおりを挟む一応実話ではない物らしいので、そういった意味でも安心して読める。
ほくほくとしばらく楽しんで読書に勤しんでいた俺は、だけど不意に、近づいてくる気配に気が付いて顔を上げた。
距離としてはまだ遠い。だけど。
(初めて感じる気配だ……いや、違う、多分初めてじゃない、一度会ったことがある……? 誰だ? 親しい相手じゃないのは間違いない、でも、ここに近づいて来れる人間なんて……)
この庭は、言うならば王族のプライベートスペースのようなものなのだ。
不用意な人間が不必要に近づいてなんか来るわけがない。
誰かに用があるのだろうとしか思えなかった。
だけど誰に。
ここにいる王族は俺一人。つまり俺に?
そのような連絡は受けておらず、先触れ一つなく、いったい誰がどんな用事があるというのか。
俺が自然警戒をあらわにするのとほとんど同時、近くにいた護衛達の間にも緊張した様子が見られるようになっていく。
多分誰かが近づいてきていることに気付いたからなのだろう。
護衛達よりも俺の方が、あるいは僅かばかり早く気付いた可能性があるのはただ単に魔力量の差や探査能力によるものだった。
護衛となると、立場などは貴族が精々。当然その魔力量などは王族には敵うわけもなく、どうしても護衛対象の方がそう言ったことに敏感になってしまうのは、ままあることと言えた。
そもそも、気付く順番などは大きな問題とはならず、どう対処するのかが肝心なので、そんなものと言えばそんなものだ。
そういった俺や護衛達の中で、シェラが一歩遅れて気が付いたのだろう、ばっと顔を上げる。
「っ、なんで……っ」
多分意図せずになのだろう、苦々しげにこぼされた言葉に眉をひそめた。
「? シェラ?」
シェラの知っている相手なのだろうか。
なら、用があるのは俺ではなく、シェラ?
俺の呼びかけに、シェラが我に返ったように慌てだした。
「ぁっ、申し訳ございません、ルニア様、その……僕の、知っているもののようですので、少し対処して参ります。後ほどご報告いたしますので……」
「えっと、うん、構わないけど……」
弱り切った雰囲気でこちらへと伺ってくるので頷いた。
元より俺に心当たりなどはない。
シェラがわかる相手だというのなら、シェラに任せてしまっていいのだろう。
「ありがとうございます、では、少し席を外します」
「いってらっしゃい」
礼儀正しく断りを入れ、足早には慣れていくシェラを、俺はなんとなくぼんやりと見送った。
珍しいこともあるものだなぁ、なんて思いながら。
だけど、すぐに戻ってくると思われたシェラは、予想に反して、その日はそれっきり戻って来なかった。
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