82 / 141
20-3
しおりを挟む席次は陛下が一番上座となる、長方形の机の、奥まった短い方の一辺に座り、その両横となる、長辺の一番奥がそれぞれ、お義母様とラティ、ラティの横が俺だ。
しかし、ラティの都合がつかない場合は、ラティの席が俺の場所となった。
今日は、ラティは、昼食を共に摂れないらしく、用意されているカトラリーは三人分。
俺は大きな机を回り込んでいつも通り、お義母様の向かい側へと腰を下ろした。
にっこりと麗しく微笑むお義母様へと笑い返していると、今度は陛下……お義父様が口を開く。
「すまない、ルニア。わざわざ手間をかけたね。ありがとう、どうも彼女は浮かれているようだ」
俺が先程、呼び寄せられるまま、お義母様の側近くまでいったん寄らざるを得なかったことを指しているのだろう、お義父様の言葉に、俺はふると控えめに首を横に振った。
「いいえ。俺……いえ、僕の方こそ、ご心配をおかけして……お二人と久しぶりにご一緒出来てとても嬉しいです。ですから、」
席へと呼び寄せられることぐらい、その後、机を回り込まねばならなかったことぐらい、どうということはない。
俺の言葉に、お義父様はほっと、安堵したように頷かれた。
「そう言ってもらえるとよいのだけれど……ああ、勿論、君の顔を久しぶりに見れて嬉しいというのは、私も同じ気持ちだよ。顔色も悪くはないね? 安心した」
柔らかな言葉と雰囲気に、胸がふわっと温かくなる。
ああ、そうだ、そうだった。
お二人はこのような方々だった。
幼い頃から、ラティよりも、いっそ俺の方をこそ大切にして下さっていらしたのだ。
まるで我が子のように、否、我が子以上に。
曰く、
『ラティは可愛げも面白みもないの。ルニアの方がずっと愛らしいわ。ラティとの婚約を受けてくれて、とっても感謝しているのよ。本当の親子になるのが今からすごく楽しみね』
とのこと。
あくまでもお義母様の言葉だが、お義父様の態度も概ね大きな違いはなかった。
もちろん、口ではそう言いながらも、ラティのことだって我が子として十二分に愛しく思っていることだろう、だけどともかく、関係が良好であることに違いはなく、それは確かに有り難いことなのだ。
その後運ばれてきた昼食は食べ慣れた味。
流石に食堂で陛下と共に摂る食事だけあって、ここ数週間、部屋でラティと二人、あるいは一人で摂ってきた食事より、余程堅苦しいものではあったのだけれど、長年、生まれ育って来てしみついている慣習は伊達ではなく、自分で思っていたよりもマナーだとかそう言ったことに対しては、意識するなどせずとも特に問題にもならず、終始和やかな雰囲気で、昼食を終わらせることが出来たのだった。
21
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします
七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。
よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。
お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい
最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。
小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。
当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。
小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。
それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは?
そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。
ゆるっとした世界観です。
身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈…
タイトルもしかしたら途中で変更するかも
イラストは紺田様に有償で依頼しました。
美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
美少女ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、バグが多いのが玉に瑕の1000時間遊べる名作RPGだ。
そんな【ドラゴンズ・ティアラ】を正規プレイからバグ利用プレイまで全てを遊び尽くした俺は、憧れのゲーム世界に転生してしまう。
俺が転生したのは子爵家の次男ヴァレリウス。ゲーム中盤で惨たらしい破滅を迎えることになる、やられ役の悪役令息だった。
冷酷な兄との対立。父の失望からの勘当。学生ランクFへの降格。破滅の未来。
前世の記憶が蘇るなり苦難のスタートとなったが、むしろ俺はハッピーだった。
家族にハズレ扱いされたヴァレリウスの【モンスター錬成】スキルは、最強キャラクター育成の鍵だったのだから。
差し当たって目指すは最強。そして本編ごとの破滅シナリオの破壊。
元よりバランス崩壊上等のプレイヤーだった俺は、自重無しのストロングスタイルで、突っかかってくる家族を返り討ちにしつつ、ストーリー本編を乗っ取ってゆく。
(他サイトでも連載中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる