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06-1・前世のこと

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 思い出した前世の記憶の中で、一番印象に残っているのは、この世界と似た世界が舞台だったBL小説のこと。
 それは間違いない。
 それ以外となると、他のBL作品や、そういった関係で仲良くなった友達のことだった。
 もっと更に他となると、漫然と出てくるのは『孤独』だった。
 孤児だっただとか言う覚えもないので、ごくごく普通に両親がいて、当たり前に育てられ、大人になっていたはずなのだけれども、それでもルニアほどには、関心を向けられていなければ、手間もかけられていなかったことだろう。
 ルニアとしての記憶もあるからこそよくわかる。
 ルニアは、ラティをはじめ、周囲に存分に構われて育ってきている。
 それは前世である日本だと、どう考えても珍しいと感じる程だと言わざるを得なかった。
 ごくごく一般的に日本で生まれ育って、ルニアほど手間をかけられることなど、通常ない。
 余程子煩悩な家か、それこそ名家だとかの跡取りだとかぐらいなのではないだろうか。ああ、溺愛されている金持ちの娘だとかいう可能性もあるかもしれないが。
 多分、両親が共働きだっただとかそれぐらいだとは思う。
 特段、家族が不仲だとかいうわけでもなく、でも、兄弟はいなかったように覚えているし、だからこそ前世の俺は長く、孤独を当たり前に感じ続けて生きていたのだろう。
 具体的に何があったのだとかはそれこそ曖昧でよくわからない。
 もしかしたら勤めていた会社がよくなかったのかもしれないし、それ以外に理由があったのかもしれなかった。
 とにかく、BLやそれ以外で俺を苛んでいたのは孤独と、そして『虚無』だ。
 生きていることそのものに対する無意味感。
 なぜ生きているのかもわからず、ただ漫然と日々を過ごす中で、件のBL小説と出会ったのは、あるいは俺の前世の人生の中で一番輝いていることだったのかもしれない。

「古本屋でさ。多分、仕事用の資料だとかを探しに行ったんだと思うんだけど、たまたま偶然、目に留まったんだよ。誰かが仕舞い忘れたんだろうな。本屋でさ。平積みになってる部分って言えばいいのか。古本屋だったから、平積みにはなってなかったんだけど、そういう場所にあったんだ。背表紙を向けて下向きに並べられている本の上に、無造作に置かれていた」

 一瞬で目を奪われた。
 表紙には妙に美麗に思える絵で、ラティとシェラが描かれていた。
 見つめ合っている二人が気になって手に取った。

「なんとなくってやつ。でも、今にして思えば、運命とかそんなんだったんじゃないかなって風にも思う」

 古本で。高い物でもなかったから買って帰った。

「読んだら視界が開けた気がしたよ。引き込まれた。多分俺はそれまで、漫画とかアニメとかをあんまり見て来なかったんじゃないかと思う。多分、家が、そういうのに関心が薄い家だったんだろうな。学生時代とかはそれでも漫画とか読んでたと思うんだけど……その辺は、やっぱりあんまり覚えてない」

 その、偶然見かけて表紙に惹かれ、手に取った本が問題の、この世界に似た世界が舞台となっている本だった。

「俺は男だったし、男同士の恋愛小説なんて、避けたっておかしくない話だったのに、何故か俺は惹かれてやまなかったんだ。ちゃんと、恋愛対象は女性だったし、実際に男性とどうこう・・・・なんて考えたことはなかった」

 この世界のように、子供を作るのに性別など関係がない世界と違って、前世では異性愛が主流だった。
 ちなみにこの世界においても、数としては異性愛の方が半数以上を占めている。
 だいたい割合としては、男性と女性の異性愛が5割、2割半が男性同士、1割半が女性同士で、残りの1割は女性が父親側に回り男性が母親側に回るケースとなった。
 BL的な表現で言うなら、女性×男性ということだ。
 圧倒的に、男性×女性が主流であることは変わらない。
 ただ、子供を作るという点においては、どの場合も特に問題とはならないので、そういった部分もあり、前世ほど奇異の目で見られるだとか言うことはないのだけれど。
 とにかくその小説の中で、俺が特に惹かれたのがラティだった。
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