23 / 141
06-1・前世のこと
しおりを挟む思い出した前世の記憶の中で、一番印象に残っているのは、この世界と似た世界が舞台だったBL小説のこと。
それは間違いない。
それ以外となると、他のBL作品や、そういった関係で仲良くなった友達のことだった。
もっと更に他となると、漫然と出てくるのは『孤独』だった。
孤児だっただとか言う覚えもないので、ごくごく普通に両親がいて、当たり前に育てられ、大人になっていたはずなのだけれども、それでもルニアほどには、関心を向けられていなければ、手間もかけられていなかったことだろう。
ルニアとしての記憶もあるからこそよくわかる。
ルニアは、ラティをはじめ、周囲に存分に構われて育ってきている。
それは前世である日本だと、どう考えても珍しいと感じる程だと言わざるを得なかった。
ごくごく一般的に日本で生まれ育って、ルニアほど手間をかけられることなど、通常ない。
余程子煩悩な家か、それこそ名家だとかの跡取りだとかぐらいなのではないだろうか。ああ、溺愛されている金持ちの娘だとかいう可能性もあるかもしれないが。
多分、両親が共働きだっただとかそれぐらいだとは思う。
特段、家族が不仲だとかいうわけでもなく、でも、兄弟はいなかったように覚えているし、だからこそ前世の俺は長く、孤独を当たり前に感じ続けて生きていたのだろう。
具体的に何があったのだとかはそれこそ曖昧でよくわからない。
もしかしたら勤めていた会社がよくなかったのかもしれないし、それ以外に理由があったのかもしれなかった。
とにかく、BLやそれ以外で俺を苛んでいたのは孤独と、そして『虚無』だ。
生きていることそのものに対する無意味感。
なぜ生きているのかもわからず、ただ漫然と日々を過ごす中で、件のBL小説と出会ったのは、あるいは俺の前世の人生の中で一番輝いていることだったのかもしれない。
「古本屋でさ。多分、仕事用の資料だとかを探しに行ったんだと思うんだけど、たまたま偶然、目に留まったんだよ。誰かが仕舞い忘れたんだろうな。本屋でさ。平積みになってる部分って言えばいいのか。古本屋だったから、平積みにはなってなかったんだけど、そういう場所にあったんだ。背表紙を向けて下向きに並べられている本の上に、無造作に置かれていた」
一瞬で目を奪われた。
表紙には妙に美麗に思える絵で、ラティとシェラが描かれていた。
見つめ合っている二人が気になって手に取った。
「なんとなくってやつ。でも、今にして思えば、運命とかそんなんだったんじゃないかなって風にも思う」
古本で。高い物でもなかったから買って帰った。
「読んだら視界が開けた気がしたよ。引き込まれた。多分俺はそれまで、漫画とかアニメとかをあんまり見て来なかったんじゃないかと思う。多分、家が、そういうのに関心が薄い家だったんだろうな。学生時代とかはそれでも漫画とか読んでたと思うんだけど……その辺は、やっぱりあんまり覚えてない」
その、偶然見かけて表紙に惹かれ、手に取った本が問題の、この世界に似た世界が舞台となっている本だった。
「俺は男だったし、男同士の恋愛小説なんて、避けたっておかしくない話だったのに、何故か俺は惹かれてやまなかったんだ。ちゃんと、恋愛対象は女性だったし、実際に男性とどうこうなんて考えたことはなかった」
この世界のように、子供を作るのに性別など関係がない世界と違って、前世では異性愛が主流だった。
ちなみにこの世界においても、数としては異性愛の方が半数以上を占めている。
だいたい割合としては、男性と女性の異性愛が5割、2割半が男性同士、1割半が女性同士で、残りの1割は女性が父親側に回り男性が母親側に回るケースとなった。
BL的な表現で言うなら、女性×男性ということだ。
圧倒的に、男性×女性が主流であることは変わらない。
ただ、子供を作るという点においては、どの場合も特に問題とはならないので、そういった部分もあり、前世ほど奇異の目で見られるだとか言うことはないのだけれど。
とにかくその小説の中で、俺が特に惹かれたのがラティだった。
115
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします
七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。
よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。
お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい
最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。
小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。
当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。
小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。
それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは?
そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。
ゆるっとした世界観です。
身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈…
タイトルもしかしたら途中で変更するかも
イラストは紺田様に有償で依頼しました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる