15 / 141
03-3
しおりを挟むしばしの沈黙。
気が付いた時にはもう遅い。
ラティは、表情ごと固まらせて無言だった。
「ちょ、るるる、ルニア様、な、なんてことをっ!」
シェラが明確に焦ったように取り乱す。
「え? あっ……え?」
何故シェラはそんなにも怯えたような顔をしているのか。
自分の願望を流されることなくようやく口に出来た達成感と、その結果なのかなんなのか、おかしくなった空気とに流石に気付いて俺もなんだか狼狽えてしまう。
宥めてくれるような人なんて、居なかった。それどころか。
「るるる、ルニア、様っ! はははは、早く、て、撤回してくださいっ! さぁ、すぐに! 早く!」
シェラがあわあわと何かを促してくるけれど、俺にはいったい何を言っているのか理解できなかった。
「え? いや、撤回? え?」
いったい何を撤回するのか。撤回しなければならないようなことは言っていない、だって俺は俺の望みを口にしただけだ、だって俺は推しと推しが仲良くしてるのが見たいんだ、自分が当事者になりたいんじゃない、だから、それで。だけど。
俺はわかっていなかった。
自分が捲くし立てた言葉が、いったいどういう意味を持っているのか。いったい誰の何を踏みじにったのか。シェラがこんなにも焦っているわけも。
「ルニア」
ぽつん。
何故かはっきりと耳に届いたラティの声は嫌に静かだった。
(あれ?)
何故だろう、さぁっと血の気が引いていく気がする。
背筋を続々とわけのわからない寒気が這い上がってきた。
(え?)
もはや声すら出ない、否、声を出すことも出来ない。
それはシェラも同じなのか、もはやことばなく淡淡しているのだけが視界の端で確認できた。
(え?)
ラティは先ほどまでと変わらず俺のすぐ傍にいる。そして。
何故だか物凄い笑顔を浮かべていた。
にっこりと、なのに凍り付きそうな笑顔だ。
(え?)
ラティのことを押しのけようとして、突っ張るようにしたままで固まっていた俺の手が、がしっとラティに捕まれる。
「ルニア」
もう一度、改めて名を呼ばれた。
掴まれた手が痛い。
(え?)
戸惑いや疑問の声一つ上げられない。
ラティは、笑顔だった。そして。
「離縁? まさか、そんなもの……するはずがないよね?」
にこやかに、ただひたすら静かに。
そう告げたラティはどう考えても、抑えきれない憤怒を、滲ませずにいられないようにしか、見えなかった。
139
お気に入りに追加
2,050
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる