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「どうしよう……」

 呟きながら、同時に心の中で、

(落ち着け、落ち着け、冷静になれ……)

 なんて言い聞かせる。
 記憶はある。
 あるのだ。
 俺の名前はマリティニア・イバティエル。ルニアという愛称で呼ばれることの多い、隣国イバティエイザ王国の第三王子だ。
 否、すでにここ、ランティエイザ王国の第一王子であり王太子であるプアラティカ・ランティエラ……――ラティに嫁いできているので、マリティニア・ランティエラとなっているのだが。
 俺とラティの婚姻は幼い頃から決められていたことで、それもあり俺は学園の初等科からここ、ランティエイザの王立学園に入学し、そのままラティとまるで兄弟のように育ってきたのである。
 俺とラティは記憶にある限り、とても仲睦まじく過ごし、そして……――何も問題なく・・・・1年前に学園を卒業、程なくして婚姻を結び、俺は晴れて王太子妃となっているようだった。しかも。
 そこまで思い出して眉根を寄せ、つと自分の腹部へと視線を落とした。
 自分でもはっきりとわかる。
 俺自身の下腹部にこごった濃い魔力。
 ――……子供が成っている。
 つまり、妊娠中だ。
 勿論、夫であるラティとの子供だった。

(い、いったい何がどうなっているんだ……)

 だって思い出した前世で読んでいたBL小説の展開とあまりにも違う。
 記憶を照らし合わせると、国名や自分たちを含めた周りの人たちの名前、立場等は小説とほとんど同じなのだ。
 だけど、小説であったはずのエピソードは、どれだけこちらの記憶を思い返してみても、何一つ当てはまりそうなものがなかったのである。
 そもそも小説の中でルニアというと、見た目だけは美しい、悪魔のような男だったはずだ。
 第三王子という自分の出自も疎んじていたし、同じ男であるラティに嫁がなければならないこと自体嫌悪しているようなキャラだった。
 ヒロイン、とでも言えばいいのか、小説の中でラティと結ばれていた主人公にちょっかいをかけていた理由だって、ただひたすらラティへの嫌がらせで、よくある嫉妬だとかそういった物ですらないような有り様だったのだから。
 あまりにあくどい上、自国まで恨んで国家転覆を企んでいたものだから、最後には処刑されてしまうのだ。なのに。
 記憶の中で、俺はラティと物凄く仲が良かったし、自分の立場だとか出自だとかにも、何の不満を抱いた覚えもなかった。
 むしろふわふわとなんの問題もなく穏やかに過ごしていたように思う。

(こ、こんなの、ルニアじゃねぇー!)

 自分のことでありながら、俺は叫びだしたい気分になっていた。
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