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61・休日に⑥
しおりを挟む僕は馬車の窓に映った自分の容姿をちらと見る。
いつも通りの薄い髪色と目の色。
市井で埋没するはずのない色味だ。
お忍び、にはどう考えてもそぐわない。
「あ、あのっ……!」
躊躇って、でも結局、確かめてしまうことにした。
「ぼ、くも、その……髪とか! 変えた方がいいでしょうか……?」
語尾が小さくなってしまったのは、自分が変な気を回しているのかもしれない、とも思ってしまったから。
だってラセア殿下からは何も言われなかったし、侍女たちも、服だとか髪型だとかは気にしていたようだけれど、髪色などについては指摘したりしなかったのである。
でも、このままではお忍びになんてならないとしか思えない。
それぐらい、街になどほとんど行ったことがない僕にもわかった。
なんて、ラセア殿下の髪色が変わっていなければ、思い至りもしなかったかもしれないけれど。
「ん? どうして?」
しかし、ラセア殿下から返ってきたのは、そんな不思議そうな反応で。
「え……どうしてって……」
やはり自信がなくなってしまう。
(髪色、このままでいいのかな……でも、多分きっと目立つと思うんだけど……)
よくわからないけれど、やっぱり街に行くのなら、変えてしまった方がいいとしか思えなかった。
それか、あるいは自身に認識阻害などをかけてしまうか。
せめてどちらかは必須ではないかと思えてきて、僕はそのままを口にする。
「あの……お忍び、ですよね……?」
服も、だからいつもとは違って、ずっと質素なものを身に着けている。
それは僕も、ラセア殿下も、だ。
「うん、そうだね」
「だったらっ……! あの……目立つかなって……」
髪も目も。
こんな淡い色合いの、どう見ても魔力が多い者が市井にはほとんどいないことぐらい、僕にだってわかっていた。
それはラセア殿下だってわかっているはずだ。
実際に殿下ご自身は、髪色を変えていらっしゃるのだから。
それに魔力だって、いつもよりずっと抑えているように見える。
僕がそこまで言って、ラセア殿下はようやく思い至った、というよりは、やはり指摘されたか、という風な顔をして、
「あ~……うーん……」
なんて、何かを悩むかのように、視線をどことも知れない空へと向けてしまった。
いったい何を悩んでいるというのだろう。
わからなくって首を傾げる。
僕は何もおかしなことなんて言っていないはずだし、お忍び、なら目立たない方がいいはず。
それとも、そういう前提からして色々と勘違いしているということなのだろうか。
(でも視察などではないのは、服装や馬車の外装からも明らかだし……)
戸惑う僕の前で、ラセア殿下はなぜか、気まずそうに視線を彷徨わせ、僕の方を見ないようにしているようだった。
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