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56・休日に①
しおりを挟む僕の気持ちが晴れないままなことは、多分ラセア殿下にもわかってしまっていたんだろう。
「フィーヴィ、少しいいかい?」
そんな風に、ラセア殿下から声をかけられたのは、休日と定めていた日の朝食後、すぐのことだった。
僕の立場は今、公爵夫人だ。
そんな僕が熟さなければならない仕事というのはそれなりに多く、お茶会や夜会への出席などの社交は勿論のこと、数多く舞い込む紹介状の選別やお礼状の作成、あるいはお断りのお手紙の執筆などをはじめ、僕たちが今、住んでいる、この大公爵邸の管理なども、僕の仕事の一部だった。
他にも、以前から僕が手掛けている魔道具についての細々とした処理や、僕が個人で所有している領地からの報告書の確認、なんて仕事もある。
つまり多岐に渡って忙しく、それでも休みなく働き続けるなんてことは出来ないし、無理をしてそんなことを続けても効率が悪くなるだけだから、一番初めの頃に、ラセア殿下とも相談した上で、週に一日、ないし二日は、そう言った仕事の予定を全く入れない、いわゆる休業日を設定していた。
これはラセア殿下も同じようになさっているらしくて、そして僕の休業日に、ラセア殿下も可能な限り合わせて下さっていて、これまでそんな日は仕事以外のことをして過ごしていた。
例えば二人で書架に籠って読書に勤しんだり、あるいは庭に出ていつもよりもゆっくりとお茶の時間を楽しんだり、あるいは何もせず部屋で共にお話をしてみたり、だ。
勿論、全ての休日を共にできたわけではない。
でもこれまで何日もそうして過ごしてきたので、この日もきっと同じようにして過ごすのだろうなと僕はなんとなく考えていたのである。
声をかけてきたのだって、今日、何をするかの提案かな、なんて。……――ある意味それは、何も間違ってはいなかったのだけれど。
「はい? 構いませんが……」
ただ、改めて目を合わせたラセア殿下からは、なんとなく躊躇いのようなものを感じられるようにも思えて、それは流石に珍しいなと首を傾げた。
今、朝食が終わったばかり。
今から二人、それぞれ一度、私室へと戻って、今日のこれからの予定を考えようと思っていた所だった。
僕は基本的に休日に、敢えて予定を入れておかなければならないような、やりたいと思うようなことを何も持ってはいなかった。
なにせ趣味が趣味である。
趣味に使う以外の魔道具作りなども好きだけれども、そういったことは休日の、更になんとなく思い立った時に行うようにしている。
読書や刺繍なんかも同じだ。
ようは何も、予定なんてなくて。
勿論、ラセア殿下のご都合さえよければ一緒に過ごそうとは思っていたし、お部屋で少し休憩したら、ラセア殿下のご予定をお伺いしてもいいかとは思っていた。
だからお声がけいただいたこと自体は全く何も構わなかったのだけれど……気にかかったのは、ラセア殿下の、いつもとは少し違うように思えるご様子の方だった。
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