上 下
127 / 148
第二章・ペーリュ視点

2-40・私に出来ること⑤

しおりを挟む

「さぁ、リーファ。このまま眠ってしまうといい。何も心配いらないからね。起きたらもうお前の苦しみは終わっているはずだ」

 曽祖父がそう、何度も優しくリーファを促している。リーファの泣き声は次第に収まっていき、やがて小さくふふと笑う気配さえ漂ってきた。

「兄様に、こうして寝かしつけられるのなんて初めてですね……兄様がいらして下さってよかった。――……義兄上……」

 そうしてそう呟いたリーファは、今度は苦しむことなく、眠りにつけたようだった。
 室内の様子に変化がないことを充分に確認してから再度、私とラーヴィは部屋に入った。
 ソファに腰掛けて、曽祖父は私が預けたそのままに、リーファを大切に抱きかかえてくれていたらしい。
 眠るリーファの表情は、先程とは比べ物にならないぐらい穏やかで、曽祖父に任せて正解だったのだろうと痛感する。
 泣きすぎたせいか、赤く腫れた目元が痛ましかった。

「リーファ」

 そっと曽祖父の腕の中のリーファの頬に触れた。そのまま親指の腹で、赤らんだ目元をゆっくりとなぞり、同時に治癒魔術も施していく。このままなんて、あまりに可哀そうで。ついでにリーファがしっかりと眠り続けられるように、触れた手のひらから、僅かばかり魔力を流しておいた。これでリーファはしばらくは起きたりしないだろう。私が魔力を流している限り。

「ペーリュ」

 曽祖父が、愛しげにリーファへと視線を落としたまま、こちらを見ずに私を呼ばわった。

「はい、曽祖父様おじいさま
「聞いていたと思うけど、リーファは了承したよ。だからお前は思う通りにやってみればいい。それはお前にしか出来ないことだろう。ペーリュ」

 言いながら曽祖父の、リーファを抱きかかえる腕に力が籠る。
 私の言った通り、リーファを寝かせたままにする。それに対して、本当は賛同しかねると考えているのだろう。
 なにせ、リーファが身ごもったとわかった時には、私を𠮟りつけてきた曽祖父なのだ。今回もきっと曽祖父は、私の提案を良しとはしていない。
 実の所、いまだに何故曽祖父があれほど私を叱ってきたのかなど全くわからないままなのだけれど、私と曽祖父は違う人間で、価値観も感性も違うのだから、きっとそういうことなのだろうと思う。
 だけどリーファは頷いた。
 いくら曽祖父が頷きやすいような話し方をしていたとはいえ、選択したのはリーファ自身だ。
 リーファを守るのは、つまり私だ。
 私ははっきりと首肯する。

「勿論です、曽祖父様。私がリーファを救います」

 私以外だなんて。リーファに触れることすら許せそうにない。
 私の返事に満足したのか、それとも何らかの踏ん切りをつけただけなのか、曽祖父は大変名残惜しそうにしながらも、そうしてようやくリーファを、私の腕へと返してくれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ではじめて奪われました

BL
26歳童貞。ごく普通の会社員だ。毎日会社と家の往復。たまに飲み会。今日はその飲み会の帰り。変わり映えのない日常は突如終わりを迎えた。 異世界に行って騎士団長に溺愛される王道ストーリー。 拙い文章で読みにくいかもしれないですが読んで頂けると嬉しいです! 実はBL初挑戦です....! ここもっとこうした方がいいとかあればご指摘ください! ※はR18です。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました。 おまけのお話を更新したりします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

【完結】横暴領主に捕まった、とある狩人の話

ゆらり
BL
 子供の頃に辺境を去った、親友ラズが忘れられない狩人シタン。ある日、釣りをするために訪れた小川で出会った美丈夫の貴族に、理不尽な罪を着せられてしまう。 「腕を斬り落とすか、別の対価を払え」 「……あの、対価というのは」 「貴様の体だ」 「はっ?」  強引執着攻め→無自覚鈍感受け。強姦から始まる割には悲壮感がありません。18禁が含まれる話には※が付きます。  ★番外編完結しました。領主視点の重い展開。本編とは別物テンションです。序盤に女装、虐待の描写があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...